吉江オススメ!
漂砂のうたう
- 9月29日 up
- 木内昇
- 出版社:集英社
- 価格:1,785円(本体1,700円+税)
時はご一新後の明治、根津の遊郭「美仙桜」を舞台に繰り広げられる人間模様である。
遊郭の立ち番として働く定九郎は武家の次男坊だった身分を隠して、時代の流れに逆らう
ことも、また波に乗ることも出来ずに無気力に過ごしている。自分の落ち度を先輩格の龍
造に注意されても世の中こんなものかと他人事のような毎日である。不思議な噺家ポン太
とのやり取り、義軍に加わらない父を責めた兄の変わり果てた姿での再会。
美仙桜の一の花魁、小野菊の身請けから端を発した事件は思いもよらない展開へと繋がってゆく・・・。
既刊「茗荷谷の猫」、「浮世女房洒落日記」、「新撰組幕末の青嵐」、「地虫鳴く」と、
どの作品にも共通する、<まるで見てきたような表現>には毎回わくわくさせられる。頁(
ページ)をめくるとそこはもう明治という新しい時代を向かえた戸惑いと希望を抱えた人々
のざわめきに満ちた根津なのである。こんなにも豊かに鮮やかに市井の人間たちの健気さ、
切なさ、そして愛おしさを生き生きと描ける力量、そこが木内昇という作家の魅力のひとつだ。
登場人物の哀しさの中にちらりと見える独特の愛嬌がさらに彼らの哀しさを引き立たせる。水
は常に流れ変化している、底の砂も水面のようには目に見えないけれど漂い、もがいている。
遊郭という水底から見たご一新の地上は見通しも悪くぼんやりしていることだろう、しかしお
天道様が出れば透明にきらきらと輝くのである。
なるようにしかならない、そうなるように出来ている・・・、確かにそうかもしれないけれど、
新しい人生を歩む小野菊にも、谷底にとどまっている定九郎にも同じくお天道様の光が当たっ
ていることには変わりはない。
名もなき人々の毎日が少しでも多くの優しさと温かさに包まれますように。









