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内容詳細

「人生」はかけがえのない宝 児童虐待、介護問題、孤立、自殺など、社会が生み出すさまざまな痛み、叫び、苦しみが身近にある現代、「最後まで自分らしく生きたい」という願いはどうしたら叶えられるのか。毎年全国で、のべ6万人を超える聴衆を対象に講演会やセミナーを行う著者が、「人はみな祝福された存在」というキリスト教の精神を通して、人が寄り添いあい、共に歩む社会福祉の原点を見つめた論文とメッセージ。

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書評

共生の道を歩む指針と原点

大宮 溥

 日本社会は今日、超高齢化社会に向かい、社会の各層に対して「生きる」意味とそれを実現するための支えを与える「社会福祉」が、大きな課題として浮かび上がっている。本書の著者市川一宏氏はこの春ルーテル学院大学学長の任を終えられたが(今も教授として在任)、日本における社会福祉の開発と発展に尽力して来られ、これを機会にこの分野で発表されてきた教示に、学長時代のメッセージを加えて出版された。本書は社会福祉の原点と今日的方向づけを示したものである。

  社会福祉の原点としての隣人愛
 本書の第一部は「共に歩む──これからを生きる論文集」であるが、その冒頭で、社会福祉の原点として、人が共に歩んで支え合う温かな交わりを作り出す「隣人愛」があげられる。これは「よきサマリア人」の譬えに端的に示されているが、その愛の根源はキリストに示された「神の愛」である(第一ヨハネ四・一〇、イザヤ四三・四)。人間が愛された存在として受け取られる時、誕生にあたって「おめでとう」と迎えられ、去るにあたって神と人とに「ありがとう」と感謝するのである。社会福祉はそれに向かう場を提供する。

  共助社会の形成
 日本における社会福祉は、貧困者や障害者に対する地方自治体中心の援助という形で始まった。「自助」ができない人たちへの「公助」である。それは受給者を受け身の立場に置く。また施設に収容することによって社会から隔離してしまう。それに対して、地域において隣人として共に生きる「共助」の体制が次第に広がってきている。ボランティア活動はそのような動きに大きく貢献するものである。

  地域共生の在宅福祉サービス
 社会福祉活動として、入所施設中心から在宅福祉サービスへの拡大がみられる。これまでは、福祉のケアを受ける人は「家」か「施設」に置かれていたのであるが、その中間に「地域」で生きるというあり方を入れるのである。それによって、生活支援の選択肢が増え、福祉によって生きる人たちが、単に受け身でなく、共生社会の一員として主体的に生きるようになる。孤立社会から絆社会へと導かれていくのである。

  教会のコミュニティ参加
 このような福祉社会の形成にあたって、教会はどのようにかかわっていったらよいのであろうか。「イエス・キリストの生涯が、人びとのため(for)にではなく、人びとと共に(with)であったという事実」(ラベル)から導かれて、教会の地域福祉実践は、コミュニティの中にあって教会員のみならず、人びとの地域的ニーズを充足させ、同時に人びとの人間的成長を支援するものであることが求められる。これは直接伝道とは一線を画した「福音のパントマイム(無言劇)」、生活と行動を通じて、コミュニティ形成の仲間となることである。これまでもキリスト教は、社会福祉施設、幼稚園を含む学校等の形で、このコミュニティ形成を推進してきたが、教会の建物をコミュニティづくりの場として提供するとか、教会員がその活動にボランティアとして参加する等が求められている。

  三・一一以後の教会への道しるべ
 日本の教会は二一世紀に入ってから、自分自身に少子高齢化の問題を持ち、社会に対して「地の塩、世の光」として参与する意欲にかげりが見えていた。それに対して東日本大震災は、人間の傲慢を砕くと共に、共生の絆に結ばれたコミュニティの再形成の課題を突き付けた。教会もこのコミュニティ形成の使命を改めて自覚し、それに努力している。本書は、その道しるべとなり、またその道を歩む情熱を与えるものである。

(おおみや・ひろし=日本聖書協会理事長)

『本のひろば』(2014年11月号)より