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内容詳細

3・11、終戦70 年を経て、日本の教会とキリスト者は現代の難問と苦難をどのように考えていけばよいのか? 山積する社会問題を見 つめ直し、神学者の立場から希望をもって語りかけた講演録。

「不安な時代」の中で信仰は決して単なる「気休め」を与えるものではないでしょう。……生ける神に希望を寄せる信仰が、この時代にどういう意味を持ち、教会に連なって生きることがどういう力や意味を与えるか、改めて学びたいと思います。(本文より)

 

《目次》

第1章 大震災と不安の時代に生きる

第2章 東日本大震災を考える

第3章 エネルギー政策転換のカイロス ──キリスト教神学の視点から福島原発事故を考える

第4章 憲法問題とキリスト教信仰

第5章 平和を求める祈りと憲法第9条

第6章 「第二次大戦下における日本基督教団の責任についての告白」 ──その意味と問題

第7章 キリストにある生命の喜び──キリスト教的生命観と出生前診断

第8章 宗教心と心の教育

第9章 キリスト教学校の使命──震災と試練の時代にあって

第10章 世界伝道としての日本伝道

 

《著者紹介》

近藤勝彦(こんどう・かつひこ)

1943 年生まれ。東京大学文学部卒業、東京神学大学大学院修士課程修了。その後、チュービ ンゲン大学に学ぶ。神学博士(チュービンゲン大学)。東京神学大学教授、学長を経て、現 在は同大学名誉教授。 著書に、『キリスト教の世界政策』『二十世紀の主要な神学者たち』 『人を生かす神の息』ほか多数。

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書評

祈りと伝道へ導く神学的思索

森島 豊

 いま、私たちは言葉を求めている。不安な時代の中で、日本を揺るがす危機的な問題に対して、キリスト者としてどのように向き合えばよいのか、信仰の言葉を求めている。本書は、日本を代表する組織神学者である近藤勝彦先生により、その強靭な神学的思索を通して現代社会の重要な問題に取り組んだもので、この要求に見事に応えている良書である。

 取り組んでいる問題は、「震災」「原発」「憲法問題」という緊急の政治的課題だけでなく、「平和問題」「生命の問題」「教育問題」など、いずれも難解な課題を扱っている。どの問題にも、キリスト教信仰と神学の視点から語られている。三位一体の神を信じること、教会の礼拝を重んじることが、いま直面している現代の諸問題にどういう意味を持っているのかを明らかにし、勇気と希望を与えている。キリスト教に対するいわれなき批判に対しては、誤解を明らかにした上で、「たじろぐことのないようにすべき」(一九四頁)と、読んでいて励まされる。深刻な問題に対しても安心して読めるのは、神の確かな救いの歴史の中にあることを思い起こさせてくれるからである。

 著者は、キリスト教会がなすべき現代の諸問題への取り組みを「キリスト教の世界政策」(四、三二頁)と呼ぶ。そこで一貫しているのは、神との関係である。危機の中で神の内に力の源泉を持ち、「歴史の恐怖に耐え、打ち勝つという生き方」(三五頁)へと励ましている。「礼拝はそのための原動力が与えられるときでもあります」(二五頁)。したがって、礼拝と教会の信仰を重んじ、そこで語られる聖書の言葉に耳を傾け、イエス・キリストの出来事から学ぶ姿勢が貫かれている。

 著者のもう一つの特徴は、現実の問題を歴史的に整理し、問題の本質を浮き彫りにし、信仰の必要性を明らかにしてくれているところである。震災と歴史理解、原発や憲法問題など複雑で難解な事柄も、問題の所在を誰にでも分かる仕方で紹介してくれている。そこで、日本の思想的・精神的弱点を鋭く突いている。たとえば、流行語となった「絆」の意味したものが「前近代的な集落的団結への回帰を言っている」(三三─三四頁)ことや、「忘却こそが救いという道にほかならない」(三七頁)自然主義的な対応を抜け出せない日本の性質を指摘され、はっとさせられる。それに対して教会の信仰は、イエス・キリストの十字架の出来事を通して、創造から神の国の到来という「被造物と共なる歴史を刻まれる救済史の神」(四二頁)への信仰であることを思い起こさせるのである。

 特に、震災の意味を「終末論的中間時における神の統治」からとらえる言葉は、読み応えがある(五三―五七頁)。神がともにおられる「慰め」と同時に、深い悔い改めをもとめる「警告」も語る。著者の言葉は、たとえそれが人災であろうと自然災害であろうと、神の創造のみ業に参与するキリスト者の使命があることを開眼させるのである。

 本書には「教団戦責告白」について検討した神学的文章も収められている。いま日本の政府が強く右傾化している中で、日本の教会がどのような姿勢であるべきかを教えてくれる。日本基督教団の教師は必読である。

 他にも、「憲法九条」「集団的自衛権」「道徳教育」「出生前診断」「信仰と科学」の問題など、扱い難い問題に取り組んでくれている。しかし、決して理想主義的にはならない。「現実は決して甘くはありません」(一〇五頁)という言葉が著者の姿勢を表している。その現実をとらえる眼差しは鋭く、切り込む言葉には説得力があり、最後には望みを持って祈りと伝道へと導かれる。厳しい歴史の現実を前にして、信仰の歩みの中で幸せに過ごす可能性が大きく開かれていくことを教えられるのである。

 本書には、皆が聞きたい時代の難題に神学者として責任を果たそうとする著者の誠実な姿勢を感じる。いま、ぜひ読むことをお勧めする。

(もりしま・ゆたか=青山学院大学准教授・大学宗教主任)

『本のひろば』(2015年12月号)より