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内容詳細

平和を実践した“愛の人”に学ぶ

世界平和の実現のために生涯尽力した国際人・新渡戸稲造。敗戦70年が過ぎた今、その精神を現代人に分かりやすく語りかける著者渾身のメッセージ集。新渡戸の人間的魅力に迫るユーモア溢れるエピソードも満載。

〈目次〉

新渡戸稲造と歩んで四十六年
リンカーン、イエス、新渡戸稲造──ユーモア三題話
人は死んで何を残すのか──新渡戸稲造の場合
オーランド諸島問題の現代的意味

新渡戸稲造──その人とはたらき
新渡戸稲造の平和
新渡戸稲造と内村鑑三
ゆがめられた『武士道』の真意
新渡戸稲造──日本最初のクエーカー

正直・親切・思いやり
日本の旧約
記念するには所をえらぶ

「武士道」はいま
「関西合同聖書集会」会報・巻頭言

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書評

新渡戸の世界平和への想いを語り継ぐ

柴崎由紀

 著者の佐藤全弘先生(大阪市立大学名誉教授)は、長年、新渡戸稲造研究の道を歩まれ、数々のご執筆やご講演を続けてこられました。まさに新渡戸研究の第一人者でいらっしゃいます。『新渡戸稲造全集』(教文館)第二次の編集をされたほか、これまでに数多くの新渡戸関連の御著書があり、また、新渡戸博士の英文著作の翻訳もされています。英語で書かれた国際的なロングセラー『武士道』の日本語訳書も教文館から出版されています。あまりにも有名でありながら、時には難解とされる同書については、詳細な脚注が入っており、版を重ねています。

 新渡戸稲造博士没後八十年の二〇一三年、『新渡戸稲造事典』(佐藤全弘・藤井茂著、教文館)が出版されました。新渡戸研究者や関係者にとりまして、「座右の書」となる待望の一冊。詳細な年表や人物紹介が含まれており、これまでの新渡戸研究の集大成です。その出版記念講演の会場は、大変な盛況ぶりで、多くの人であふれました。

 このたび、近年のご講演の記録を中心に、年刊誌『新渡戸稲造の世界』(新渡戸基金)の寄稿文なども収録された渾身のメッセージ集『新渡戸稲造と歩んだ道』(教文館)が刊行になりました。佐藤先生の貴重なご講演の数々を、こうしてじっくり拝読できますことは、新渡戸稲造博士の足跡をたどりつつ学ぶ私たちにとって、大きな恵みです。

 本書には、『新渡戸稲造事典』の出版記念講演「リンカーン、イエス、新渡戸稲造──ユーモア三題話」も収録されています。続いて「人は死んでなにを残すか──新渡戸稲造の場合」では、新渡戸博士が多岐にわたって私たちに遺してくださった多くの遺産について、真摯に、わかりやすく語りかけていらっしゃいます。さらに、それが日本に留まらず、世界にも広く影響を及ぼし続けていることが、次章の「オーランド諸島問題の現代的意味」でわかります。新渡戸博士が国際連盟の事務次長、国際部長として、およそ百年前に解決に導いた国際紛争を、今日でも世界のいたるところで起こっている国境問題にも重ねて、丁寧に解説されています。

 本書の中で、佐藤先生が繰り返し紹介されている新渡戸博士の言葉があります。亡くなる数カ月前に書かれた「夢と夢見る人」という文章の一部です。

 「全人類が兄弟となり、戦争が人類を引裂くことなく、戦争の噂が女性の心に恐れを抱かせることもない未来の夢を私は夢見る。偉大な夢想家が見た夢で無駄だった夢はない。偉大なる夢でそれに姿を与える実際的天才が見つからなかったものはない」。(一二五頁)

 新渡戸博士から現代の私たちへの伝言のように聞こえます。平和な未来の姿を夢見ながら、遠く異国の地で新渡戸博士は亡くなり、その後、日本は戦争へと突き進んでいきました。

 戦後七十年に出版された本書は、長年、新渡戸研究の道を歩んでこられた佐藤全弘先生が、新渡戸博士の世界平和への願い、実践、そして、時には魅力あふれる人間像を、まるで「架け橋」のように、現代そして次代へと広い年齢層の読者に語り継いでいらっしゃいます。

 新渡戸博士は、ジュネーブの国際連盟では各国からの職員の人たちに、そして家族の方々にも、「自分が死んだあと二十年たったとき、自分を理解し覚えていてくれる人がたった一人でもおれば満足だね!」とたびたび言っていた、と佐藤先生は直接、新渡戸博士の養女ことさんに伺ったと書いておられます(八六頁)。

 二十年をはるかに超えて、すでに没後八十年。私自身も、新渡戸博士の生涯から多くを学び、さまざまな出会いに恵まれました。佐藤全弘先生のこれまでの尊い歩みをこうして共有できますことに、心より感謝を申し上げます。

(しばざき・ゆき=ライター・編集者)

『本のひろば』(2016年6月号)より