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内容詳細

「クリスマス」は危険な祭り?
福音書が「民全体の大きな喜び」と告げるイエスの誕生は、当時のユダヤ社会で本当に喜びとして迎えられたのか。クリスマスを祝う意味を真摯に問う説教集。

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書評

降誕の真実を知る痛みと大いなる喜び

白正煥

 及川信牧師の八冊目の説教集『イエスの降誕物語』が刊行されたことを大変嬉しく思う。これまでのものがそうであったように、この度の説教集も収録されている一五の説教のどこを読んでも深い聖書理解と人間理解に基づいていることが分かる。そして両方の狭間で必死に神のみ旨を聴き取り、聴衆の魂に届く研ぎ澄まされた言葉で語っている。読む度に神の深い愛に触れ、心痛み、涙しながら悔い改め、そして心底から湧きあがる喜びを覚える。このような説教集を再び手にすることができるのは、毎週の説教準備に追われる者にとっては大きな励ましとチャレンジとなる。

 この本が刊行されたことを知り直ちに取り寄せ、主日礼拝後に礼拝出席者に紹介した。その週の半ば、夜の聖書研究祈祷会に出席している一人の姉妹が目を真っ赤にして「及川先生の説教集、会社への行き来の電車の中で読んでいてあと少しで読み終わりますが、読む度に涙が出て困るのです。だって先生はイエス様のことを『神様のはらわた』と言うんですよ。......自分が今までクリスマスをどんなに勘違いしていたか......」と必死に涙をこらえながら感想を言ってくれた。この人だけではない。私が仕えている教会に集う多くの人も同感である。毎回のことであるが、今回も感想を語り合う人々によって説教集はどんどん人へと広がり、実に礼拝出席者の半数ほどの人が喜んで買って読み、そのうちの何人かは感想を聞かせてくれた。

 こういうことを書くと、教会員の中で及川牧師がいる教会の方に移る人もいるのではないかと心配する人もいるかも知れないので老婆心から申し添えておくと、その反対である。信仰が深められ、自分が属している教会で熱心に信仰生活をしている。聖書を解き明かす優れた説教は、信仰者を生かし、教会を生かしていることを実感している。主任担任教師一人の教会が多い日本の教会において、その教会に集う信徒は聖書の解き明かしをその教会の牧師だけに寄り頼らざるを得ない。しかし一人だけではなく、一人でも二人でも多くの説教者による解き明かしに接することは礼拝出席者の信仰をより豊かにするのではないかと思っている。現実的に複数体制が難しい教会において、優れた説教集はみ言葉による教会形成を目指し孤軍奮闘している牧師にとっては大きな援軍となる。私が礼拝出席者やその他家庭集会などで出会う人々に及川牧師の説教集を薦めるのはこのような理由からである。

 さて、この度の説教集に収まっているマタイとルカの二つの福音書からなる一五の説教は、及川牧師が仕えている中渋谷教会の待降節と降誕節において語られた説教である。及川牧師がどのような思いでクリスマス説教に臨んだかを「あとがき」に記しているのでここに引用しておく。

 「世の中のクリスマスは『甘すぎる』と......皆、古い自分を喜ばせすぎる。聖書を読めば、クリスマスとは神ご自身が危険な旅に一歩を踏み出したことである。神様がその在り方を変えたのだし、御子も十字架への歩みを始めたのである。それは必ず罪人の一人として死ぬことを意味する。その御子を我が身に迎えるクリスマス(キリスト礼拝)が、家族や恋人、あるいは友人たちが会って楽しむだけであるはずがないではないか」。

 いずれの説教も隠していて見ようともしない人間の深い闇のところを抉り出している。だから浮かれた気持ちで聴ける(読める)説教ではない。しかし、その説教を聴きたがる人々は実に多い。本当に直視すべきことは何であり、直視した時、深い喜びがあふれることを感じるからである。そういう説教である。退院後、月二回の頻度で講壇に立ち、み言葉の解き明かしに全力を尽くしている及川牧師を用いておられる神に感謝し、先生のリハビリの日々が守られますよう切に祈る。

(べく・ぢょんふぁん=日本基督教団用賀教会牧師)

『本のひろば』(2016年12月号)より