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内容詳細

渡来から現代まで、国家の宗教政策との関係を軸に辿る、これまでにない〈日本のキリスト教〉の通史。

*特定の教派や人物中心ではない公平な記述。

*貴重な当事者の証言や一次資料の引用を含む高い資料的価値。

*巻末に110頁にわたる詳細な年表(1490~2017年)を収録。

非キリスト教国・日本に、キリスト教がもたらしたのは何であったのか、文化史的・社会史的な影響を問う。

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目次より

第一章  前史

第二章  渡来とキリシタン

第三章  禁制と潜伏

第四章  開国と再来

第五章  黙許と第二維新

第六章  公許と制限

第七章  監督下の抵抗と順応

第八章  公認下のキリスト教運動

第九章  軍国化と岐路

第一〇章 統制下の戦争協力と弾圧

第一一章 自由と新出発

第一二章 土着化の道

年表(一四九〇―二〇一七年)

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◆著者紹介◆ 

鈴木範久(すずき・のりひさ)

1935年生まれ。専攻,宗教学宗教史学。立教大学名誉教授。

近代日本キリスト教研究、とくに内村鑑三研究と日本語聖書翻研究の第一人者。

著書:『明治宗教思潮の研究』(東京大学出版会,1979),『内村鑑三』(岩波新書,1984),『内村鑑三日録』全12巻(教文館,1993-99),『日本宗教史物語』(聖公会出版,2001),『日本キリスト教史物語』(教文館,2001),『聖書の日本語』(岩波書店,2006),『中勘助せんせ』(岩波書店,2009),『信教自由の事件史』(オリエンス宗教研究所,2010),『近代日本のバイブル』(教文館,2011),『内村鑑三の人と思想』(岩波書店,2012),『聖書を読んだ30人』(日本聖書協会,2017)ほか。

編集:『内村鑑三全集』全40巻(岩波書店,1980-84)ほか。

翻訳:内村鑑三『代表的日本人』(岩波文庫,1995)など。

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書評

教派の展開と多岐にわたる研究から成る通史

山口陽一

 『内村鑑三』(岩波新書、一九八四年)の、奥行き深く人間味ある研究に触れ、立教大学に鈴木範久氏の門をたたいたのは一九八七年だった。『日本キリスト教歴史大事典』の「日本キリスト教史年表」作成に関係した講義を受講したことを懐かしく思いながら、待望の日本キリスト教史の「通史」を手にした。著者の専門分野は宗教学・日本宗教史であり、『明治宗教思潮の研究──宗教学事始』(東京大学出版会、一九七九年)はその代表的著作である。しかし、多くの読者は内村鑑三研究において著者の名を思い起こすだろう。『内村鑑三日録』全十二巻(教文館、一九九三─九九年)、『内村鑑三の人と思想』(岩波書店、二〇一二年)はその結実である。また、膨大な日本キリスト教史研究は、『聖書の日本語──翻訳の歴史』(岩波書店、二〇〇六年)、『聖書を読んだ人──夏目漱石から山本五十六まで』(日本聖書協会、二〇一七年)他により広く知られている。

 鈴木氏の著作は、いつも新しく類似の本がない。しかし、本書にはこれまでの業績が凝縮される。枠組みとしては『日本キリスト教史物語』(教文館、二〇〇一年)、内容としては『信教の自由の事件史──日本のキリスト教をめぐって』(オリエンス宗教研究所、二〇一〇年)と重なる部分があるが、そこにも入念に手が加えられている。

 鈴木氏は言う。「自分にとって日本のキリスト教史の領域は、さながら、もがき苦しむ荒野にひとしかった。先学の成果に少なからず影響は受けても、どこか違うという感じを拭いきれなかった」。多くの日本キリスト教史は教派や教師の視点からキリスト教の自己展開を描くが、鈴木氏は、「広く日本の文化的、社会的広がりのなかでキリスト教の影響や役割を考慮」し、「日本における聖書の思想の、広義の文化史的展開をもって」日本キリスト教史としている。それは国家・村落共同体との交渉史であり、「キリスト教は、併呑され、懐柔され、屈服され、ささやかな抵抗を重ねてきた足跡の歴史といえる」(三七二頁)。著者は「ささやかな抵抗」と言うが、本書には日本にキリスト教がもたらされたことの「ささやかではない」意味が語られている。

 日本の宗教政策との関係でなされる時代区分は、元号や「発展」「沈滞」「苦難」「復興」というようなものではなく、「禁制と潜伏」「開国と再来」「黙許と第二維新」「公許と制限」「監督下の抵抗と順応」「公認下のキリスト教運動」「軍国化と岐路」「統制下の戦争協力と弾圧」「自由と新出発」(三─一一章)となる。各章にはその時代を特徴づけるテーマを扱う一〇前後の「節」があり、史料に依拠してコンパクトに記される要点に唸らされる。平田篤胤の『本教外篇』など難解な文献の急所が押えられ、陽明学がキリスト教への媒介となったという定説に対して、キリスト教から陽明学への歩みもあることを明らかにするなど、各所で独自の見解が示される。「無教会主義キリスト教は、世界のキリスト教史上において、少なくとも意義の上ではルターの宗教改革に匹敵する」(一七三頁)、「天主」を「神」に改めたことは『カトリック要理』(一九六〇年)の最大問題(三四九頁)など大胆な評価があり、裏歴史のような出来事がクローズアップされ意義づけられる。「キリスト教の諜者たち」「高梁教会事件」「巣鴨監獄教誨師事件」「『青年之福音』事件」「大逆事件と蘆花の「謀反論」「新渡戸稲造の松山事件」「ゴー・ストップ事件」「奄美大島事件」などである。あるいは「キリスト教私塾の役割」「キリスト教の村長たち」などの著者ならではの視点もあり、終章では、日本という共同体にあって「屹立した」内村鑑三と「水平的に越境した」遠藤周作を位置づけ、この両者からの距離を日本キリスト教史の指標としている。

 巻末には二〇一七年までの「日本キリスト教史年表」最新版(全一〇五頁)がおかれている。本書はここから九七の出来事を選び出して「年表で読む」形をとり、多くの教派の展開と多岐にわたる研究のゆえに至難の業と思われた「日本キリスト教史」の「通史」を説得力をもってみごとに成立させた。

(やまぐち・よういち=東京基督教大学教授)

『本のひろば』(2018年1月号)より