昨年5月に発売され話題となった「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」は
1年以上経った今もロングセラーを続けています。

その「シェイクスピア&カンパニー書店」を開いたシルヴィア・ビーチが自ら書いた
「シェイクスピア・アンド・カンパニイ書店」と
シルヴィアが書店を開く際に、いろいろと助言したアドリエンヌ・モニエが書いた
「オデオン通り」が
2冊同時に発売になりました!

アドリエンヌ自身もパリのオデオン通りで「本の友の家」という書店を
経営していた女性で、その書店はジョイス、ヴァレリー、ベンヤミン、ブルトン・・・などの
文学者たちに大きな役割を果たした店としても知られています。
一般読者の要望に応えるべく努力を惜しまない一方で
彼女なりの独自の文学的価値基準を貫き通し、
「本の友の家」は時の作家や詩人たちが自分自身の位置を
見せつけるためにも大きな存在だったそうです。

典型的な文学少女だったアドリエンヌはその生涯を
文字通り文学に身を捧げ、文学的サロンの中心で活躍。
その人脈を知れば知るほど圧倒されます。

本屋の女主人が文学界にここまで影響を与えた(それは彼女が
意図的に行ったことではない)経由が時代背景、人とのつながり、
当時の出版事情などを含めて非常に興味深く綴られています。

一方、シルヴィア・ビーチはボルチモア生まれのアメリカ人ですが、
フランス好きな両親の影響で幼いころからフランスの芸術、文化に
触れて育ち、仏文学の研究のためパリで暮らすことを決意。
その後、アドリエンヌ(前出)や周囲の人々の協力を得て、
書店を開きたいという漠然とした夢をパリで実現したのです。

海のものとも山のものともわからない自称<芸術家たち>の溜まり場となる
「シェイクスピア&カンパニー書店」はジョイスの「ユリシーズ」を世に送り出す
こととなりました。他にもジイド、ヘミングウェイ、ラルボー、T・S・エリオット、
フィッツジェラルドなど、後にいわゆるロスジェネと呼ばれ大作家となった人たちも
常連でした。

いいなあ、こんな本屋さん!
古きよき時代の文化サロン・・・なんてぼんやり想うだけならどんなにか
幸せなんですが、一応こんなんでも書店員なので、はてさて、今の時代、
「書店の役割」っていったいなんなのだろう?とひどく考えさせられる2冊でもありました。

<紙の本>はいづれなくなってしまうのか、
「ハーモニー」(伊藤計劃・ハヤカワ文庫)の舞台と同じくレゾン・デエトルさえ失い、
単なる<デッド・メディア>扱いされるモノになってしまうのか。

《本屋という職業には、苦役を償ってくれるものがある。
それはすばらしい人たちが訪ねてきてくれることだ》
・・・「オデオン通り」本文より。
「すばらしい人たち」。。。それは本を、本屋を愛してくださるお客さまです。
和書部一同、ガンバリます!!

「シェイクスピア・アンド・カンパニー書店」シルヴィア・ビーチ 2730円(税込)
「オデオン通り」アドリエンヌ・モリエ 2730円(税込)
「シェイクスピア&カンパニー書店の優しき日々」ジェレミー・マーサー 2730円(税込)
いづれも河出書房新社