麻雀・競輪・・・ギャンブルで徹夜はが当たり前だった怪作家のもうひとつの名前は、「阿佐田哲也」。

「朝だ徹夜」に由来するというのは有名な話。そしていつでもどこでも突然眠ってしまう「ナルコレプシー」という奇病に悩まされていたところから、親しみを込めた書名が「いねむり先生」なのである。

豪放な作品と奇奇怪怪な風貌で「強面の変なおっさん」に見られがちな作家の真の姿は、人の何倍も心やさしい謙虚な、そして自身も壊れやすい繊細な人物。彼に触れた全ての人が魅了されずにはおれない愛すべき男性だった。

プライベートで近く親しかった伊集院静さんのこの自伝的長篇小説の中で<ボク>(伊集院さん)はこれからの映画界を背負う大女優に成長しつつあった妻を若くして病気で喪って以来、立ち直れず、ふらふらと自暴自棄な日々を送っている。そんなとき知人に紹介された色川武大という大作家の人柄に魅かれるだけでなく不安定な自分が知らないうちに先生の何気ない思いやりや行動、朴訥な言葉に支えられていることを実感するようになる。

尋常でないナニカ一種の凄みと限りない優しさをこれほどまでに兼ね備えた人が実在したことが恐ろしくもあり切なくもある。いつもなにごとにも真剣でまっすぐな先生は時にはわがままに思えるかもしれないが正直者というのは世の中ではそんな評価なのかもしれない。
<困った人ね>と微笑まれるのは愛されている証拠なのだ。
寂しがりやなのに一人の時間が好き。。。矛盾しているようでも人間ってみんなそんなところが
ある。

<先生>と<ボク>の関係は言葉少なに、つかず離れず。それでも充実した日々が
流れるその様子は2人の傷口が深いゆえに余計に哀しさが募る。
片田舎の映画館で生前の妻が主演した映画の看板を発見し苦々しい想いにかられるボクに「人は病気や事故で亡くなるんじゃないそうです。人は寿命で亡くなるそうです。」と語る先生の姿には泣かされる。どんな慰めのことばよりも奥深くずしんと響いてくる。

いねむりな色川先生の作品をまだ読んだことのない方、ぜひぜひ。
2階文庫売場で多数取り揃えております。

 

 

週刊新潮の連載「世間の値打ち」で福田和也さんが当店の「いねむり先生」のPOPを褒めて下さいました、いや~~っ、恥ずかしいです、恐縮です&嬉しいです、ありがとうございました!

 

 

 「いねむり先生」伊集院静 集英社(税込1680円)