「アタシたちが生まれる前ってサ、すっごく景気がよくて日本中浮かれてたんだって。」
 「らしいねーーー、わかんないよね。どんだけ浮かれてたのかって。」
 「ウチの学校、授業料高いじゃん。なんかさー、やっぱ親に悪いなあって。」
 「そーそー、おこづかいの不足くらいはバイトしないとさぁーーー」

先日、地下鉄で乗り合わせた女子高生2人の会話である。

大きな声では言えないので小さい字で書きますが、自分の学生時代に親が払ってくれた
授業料がいったいいくらだったのか?いまだに知りません。。。がーーーーーん!
はい、激しくのんきで申し訳ありません。
女子高生のフリ見てわがフリ直せ、です・・・。

資産家の娘と結婚し、表面上は過去の貧困とは無縁になったような
吉野解が、かつて苦学生だったころに下宿していた古書店<泪亭>の
二階で白井沙漠と名乗る女性と知り会うところからストーリーは展開する。

素性の知れない沙漠が解に借金を申し込むところから、すでに
歪みはじめていた2人の人生は加速度的に歯車が狂い始める。
改正賃金業法が施行される前、返済に苦しみ隠れるように暮らす多重債務者たち。
逃れても逃れてもその負の連鎖から抜け出すことは不可能なのだ。

解の妻・由乃は何不自由なく育ったお嬢さま気質が抜けないままの主婦、
ぱっとしない仕事を続けながら独身のままの里子、
かつては代理店で華々しく活躍していた、泪亭の店主・佐藤。
この人々が微妙に絡みながら、物語は闇へと突き進む。

言いようのないこの重さ、息苦しさは「見たくないもの見たさ」である。
<お金>は大事である、しかし、<すべて>ではない。
お金という魔物の正体から目を逸らし流される沙漠を、
読者は<甘い>と捉えるだろうか?
赤貧のあまり生まれてこのかたお鮨を食べたことがなく、
大学生になって教授に鮨屋に誘わて、事前に単語カードで鮨ネタを
予習していた解の姿を笑えるだろうか?
大金を得ても<育ち>は変えられないという現実を直視できるだろうか?

人には言えない男女関係や、親子のつながりなど桜庭一樹のテーマを
踏まえながらも過去の作品たちから、もう1歩越えたものだと思えた。

 「ばらばら死体の夜」 桜庭一樹 集英社・税込み1575円