ベスト👍 フィクション
『正吉とヤギ』
塩野米松 文
矢吹申彦 絵
福音館書店 刊
2021年6月10日 発行
定価1540円(税込)
122ページ
対象:小学校中学年から

青い海と青い空がまぶしい南の島で起きた出来事

南の小さな島で6歳の正吉はおじい、おばあと暮らしていました。ある日、生まれてまもない子ヤギがやってきます。正吉は「おれのヤギだ。おれの友だち。子ども同士、なかまだぞ」と大喜び。正吉は寝ても覚めてもヤギのことで頭がいっぱいになりました。小屋を作ったり、くさはらに連れて行ったりしながら、ふたりは距離を縮めていきます。

何気ない日常の描写がとても丁寧で、じっくり読ませます。このしっかりとした描写がこの物語を支えていると思いました。

正吉の幸せな時間は、ある日やってきた黒い軍艦によって失われます。それはあまりに突然で、読んでいて一瞬、何が起きたのかわからなくなったほどでした。
途中にも父親と兄を戦争にとられたことがわかる部分があるのですが、正吉の視線で描かれているためはっきりとしたことは言及されていません。だからこそ、読後感の喪失感は大きく、胸に迫ってきました。

太平洋戦争末期の沖縄を舞台にした物語。声高に叫んではいませんが、作者の反戦の思いが静かに伝わってきます。なかなか子どもが自ら手を出しにくい本だとは思います。でも、だからこそ確かに手渡したい1冊です。 (す)

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