クリーンヒット⚾  フィクション
『月と珊瑚』
上條さなえ 著
講談社 刊
2019年7月
本体1,400円+税
174ページ
対象:小学校高学年以上

戦争、そして基地問題について考える
大城珊瑚は沖縄でおばあちゃんと暮らす小学6年生の女の子。おばあちゃんの「ルリバー」は民謡歌手で、珊瑚も三歳から民謡を習っています。

珊瑚はルリバー、親友のくるみ、東京からきた転校生の詩音と月(るな)との交流を通じて、少しずつ自分の家族や沖縄の歴史に目を向けていきます。
その中で明かされる曾祖母が「ジュリ(=那覇の遊郭で働く女性)」だったという事実。ルリバーの告白にショックを受ける珊瑚ですが、月の優しさと思いやりに救われて自分を受け入れていきます。

“アイデンティティ”を意識し始める年頃の子どもを主人公にした戦争について考えさせるストーリーですが、作中にはほかにも辺野古の埋め立てや普天間の基地問題といった話題が子どもたちの会話にごく自然な流れでのぼります。

6月は平和月間となる沖縄。一人また一人と、戦争を体験した人が少なくなる中、私たちがあらためて意識を向けるべき先を再認識させる内容でもあります。

勉強が苦手な珊瑚が学力を上げるために日記をつけ始めるという設定の本書。だんだんと文中に使われる漢字が増えていくことにも注目してください。作品の冒頭とおしまいに登場する珊瑚の作文を見るとその変化は歴然で、人知れず珊瑚を応援していた自分に気づき成長に嬉しくなりますよ。 (い)