クリーンヒット⚾ フィクション
『チョコレートのおみやげ』
岡田淳 文
植田真 絵
BL出版 刊
2021年6月1日 発行
48ページ
定価1,650円(税込)
対象:小学校中学年から

心が満ちるということ

突然ですが、幸福度について考えたことはありますか?
「幸福度」とは所得や学歴に関係なく、暮らしにおける満足感や充実感をはかったものです。「幸せ」という主観を具現化することは難しいのですが、日本は先進国の中でこの幸福度が非常に低いといわれています。

確かに今日日、社会では増税やコロナ禍での自由への抑制、そこに同調圧力のような雰囲気が漂い、どうにも心が摩耗しているように感じてなりません。……ん? まてよ。ということは、私の幸福度も低いってこと?

そんなやるせなさを覚えていた時、この本を読んで心の凝りがきらりと昇華していくのを感じました。物語の登場人物は女の子とその叔母、そして叔母の話に出てくる1人の男と相棒のにわとり。男の仕事は風船売りで、にわとりは毎朝屋根に上ってその日の風の具合を男に伝えていました。おかげで風船はよく売れ、夜になると彼らは好物のチョコレートを食べながら、街で見たことや家の周囲で起きたことを話して仲良く暮らしていました。
ところがある日、にわとりは出来心で男に間違った風の予報を伝えます。すると男は、夕方になっても夜になっても戻ってきませんでした。次の日も、その次の日も……。
にわとりは自分の過ちを激しく後悔します。そして、みなさんの想像どおり、風見鶏になって男の帰りを待ち続けます。

ここでストーリーが終わってしまっていたら私(たち)の心はくすぶったままだったでしょうが、ご安心を。
叔母の語りを隣で聞いていた女の子が話を引き継ぎ、温かな最後に結び直してくれます。その結末に、舌の上でチョコレートがゆったりほどけていくような穏やかで、ささやかな幸せが広がります。
もし今、暗澹たる思いを抱えている人がいたら、どうぞこの本を読んでみてください。  (い)

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