ベスト👍 伝記
『はじめて読む科学者の伝記 猿橋勝子 女性科学者の先駆者』
清水洋美 文
野見山響子 絵
汐文社 刊
2021年3月
定価1760円(税込)
159ページ
対象:小学校高学年から

夏休みは運命の「伝記」に出会ってほしい

猿橋勝子という人を知っていますか?
恥ずかしながら、私はこの本を読むまで猿橋さんの存在を知りませんでした。

大正に生まれ、女性が学問の道に進むことに寛容でなかった時代、
創設されたばかりの帝国女子理学専門学校に入学した猿橋勝子さん。
学校時代はポロニウムの研究をてがけ、卒業後は軍国主義が支配する中
中央気象台で、基礎研究を進めていった猿橋さんは、戦後運命的な仕事を託されます。
それは、ビキニ環礁水爆実験で被曝した第五福竜丸の死の灰を分析する仕事でした。
密閉された小さな瓶のなかの芥子粒くらいの小さな灰。
分析は一回限り。絶対に失敗は許されない中で、猿橋さんは水爆への怒りを
鬼のような集中力に変えて、緻密かつ正確な分析を成功させました。
やがて世界的に名前が知られるようになっていった猿橋さんは、まだまだ日本の中では
日の目を見ることが困難な女性科学者のために会を設立し、女性科学者たちの活躍の道を
切り開いていきます。

自らの研究に手を抜くことなく、同時に若き女性科学者たちの道を切り開くことを常に
考え行動し続けた、猿橋さん。
その原動力となったのは、「マリー・キュリー」の存在でした。
学生時代に夢中になって読んだマリーの本が、猿橋さんのぶれない原点となっていました。

すぐれた人物のすぐれた「伝記」には、魂を震わせる、大きな力があります。

この伝記を読んで、「日本のマリー」がまたひとり誕生してくれたなら、
天国の猿橋さんもどんなに嬉しいことでしょう。                      (く)

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