税込価格:3080円
購入サイトへ 問い合わせる
※在庫状況についてのご注意。

内容詳細

 イエスにバプテスマを授け、その宣教活動に決定的な影響を及ぼしたバプテスマのヨハネ。彼は一体どんな人物だったのだろうか?

 彼は預言者だったのか、それとも黙示思想家だったのか?

 なぜ、彼のバプテスマ運動は多くの人々を惹きつけることができたのか? 

 本書では、イエスやクムラン宗団などとの共通点と相違点を明らかにし、バプテスマのヨハネの実像に迫る。バプテスマのヨハネについて日本語で書かれた初めての論考!

[目次より]

第1章 バプテスマのヨハネとは誰か/ 第2章 ヨハネの教え/ 第3章 バプテスマとは何か/ 第4章 福音書のなかのヨハネ/ 第5章 バプテスマのヨハネとイエス/ 補論 ヨハネとイエスの時間感覚ほか

在庫表示は概要となります。詳しくは「問い合わせる」ボタンから直接出版部にお問い合わせください。

書評

ヨハネの実像に迫る今日的な試み

川島貞雄

 イエスを理解するうえでバプテスマのヨハネの存在は欠かせないが、筆者の知るかぎり、日本語ではこれまでヨハネをテーマとする包括的な研究書は書かれていない。このたび吉田新氏の『バプテスマのヨハネ』が教文館の「聖書の研究シリーズ」に加えられた。大変喜ばしいことである。著者はハイデルベルク大学で神学博士の学位を取得、現在、同大学の東アジア研究センター日本学研究所客員研究員。新進気鋭の研究者である。

 本書は第一章「バプテスマのヨハネとは誰か」、第二章「ヨハネの教え」、第三章「バプテスマとは何か」、第四章「福音書のなかのヨハネ」、第五章「バプテスマのヨハネとイエス」、補論「ヨハネとイエスの時間感覚」から構成されている。著者は先ずヨハネの運動の歴史的背景として前二世紀のシリア王アンティオコス四世とヘレニズム的ユダヤ人による暴力的なヘレニズム化の試みに対する「敬虔な者たち」(ハシディーム)の抵抗と殉教、その中で高まる黙示文学的終末期待から、後のローマ帝国の圧制の下で生じた帝国とその傀儡であるユダヤ人政権に対する反乱にいたる時代を概観し、その流れのなかで民族的・宗教的アイデンティティ喪失への危機感から律法尊重主義、清浄観念が強化され、ヨハネ登場の素地が用意されたことを指摘する。ヨハネは「そのような危機的状況は神の裁きが下される予兆だと受け取り、人々の内面の備えを勧告した」(二二頁)。ヨハネが祭司の出であった蓋然性は高いが(二三頁)、彼の言動は預言者的である(四七頁)。だが終末的審判者としての「人の子」や歴史の「内」にではなく「外」にある終末の期待などにおいて、ヨハネは黙示思想の影響を受けている(六〇―六四頁)。

 こうして著者は、エッセネ派・クムラン宗団の沐浴やユダヤ教の改宗沐浴との比較によって、迫り来る終末の裁きに備えて悔い改めの一回的なバプテスマを、閉鎖的な共同体においてではなく、全ユダヤ人に向かって要求するヨハネの洗礼の特色を明らかにする(一一七頁以下)。その神殿批判的性格が繰り返し強調される。神殿で祭司が執り行う祭儀をとおして与えられる罪の赦しを、ヨハネはヨルダン川における悔い改めの洗礼によって与えた。彼のバプテスマを受けに来た者たちのなかにはクムラン宗団からも神殿祭儀からも排除された「罪人」と呼ばれていた人々も含まれていた。イエスの神殿批判は「ヨハネから学んだと考えられる」(八頁)。

 しかしイエスは、村々を巡回し、ヨルダン川のヨハネのもとに行けない「罪人」とも積極的にかかわることによって「罪人」を生み出す構造への根源的批判を行った点で、ヨハネを超えている(一三七―一三八頁)。さらにヨハネとイエスとの最大かつ決定的な相違点として後者における「祝祭空間」としての「神の支配の圧倒的な現臨感」が強調される。それは恵みの言説と共にイエスの運動を規定する(一七八頁)。著者はイエスのこの時間感覚を木村敏の「イントラ・フェストゥム」(祝祭の只中)から説明することをも試みている(一九三頁以下)。

 筆者は本書から多くのことを学ぶことができた。だが神の終末的支配、律法、バプテスマという重要な事柄に関してイエスとヨハネとの対立的相違がきわめて大きいことは、「イエスの活動はヨハネの投獄、殺害を機に始められた」(八頁)というよりも、むしろイエスがすでにそれ以前にヨハネから批判的に離れて独自に活動していたことを示唆しないだろうか。また、ヨハネの洗礼を受けることが「悔い改めにふさわしい実を結ぶことに他ならない」(一八五頁)のだろうか。意見が分かれるところである。いずれにせよ本書は、厖大な使用文献と専門的な注からも分かるように、最近までの研究史を踏まえて諸説と批判的に向き合いつつ論を進めているが、平明な叙述と多くの図表や写真、各章の最後に付された「まとめ」によって一般読者にも理解しやすいものとなっている。今日ヨハネの実像を探求しようとする者には実に有益な書物である。

(かわしま・さだお=日本基督教団隠退教師)

『本のひろば』(2013年3月号)より