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内容詳細

450周年記念出版!

宗教改革の戦いの中から生まれ、教派的・時代的・地域的制約を越えて愛されてきた『ハイデルベルク信仰問答』。私たちの「ただ一つの慰め」を説く、この美しく力ある言葉はどのようにして生まれたのか? その歴史的・神学的背景、執筆者問題、そして翻訳の歴史や研究論文資料までを、信仰問答研究の第一人者がまとめた労作。日本で初めて紹介される本格的研究書。

 

【目次】

序 文(L. D. ビエルマ)

第Ⅰ部 歴史研究

第一章 プファルツ宗教改革と『ハイデルベルク信仰問答』の起源(1500─1562年) (C. D. ガノーJr.)  
第二章 『ハイデルベルク信仰問答』の目的と著者(L. D.ビエルマ)
第三章 『ハイデルベルク信仰問答』の資料と神学(L. D.ビエルマ)
第四章 『ハイデルベルク信仰問答』──初期の出版と翻訳(K. Y. マーグ)
第五章 『ハイデルベルク信仰問答』研究文献(1900年以降)(P. W. フィールズ)

第Ⅱ部 ウルジヌスの教理問答

序論(L. D.ビエルマ)
『小教理問答』
『大教理問答』

訳者あとがき

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書評

四五〇周年記念出版

出村 彰

 今年(二〇一三年)は、 「ハイデルベルク信仰問答」制定から四五〇年に当たるので、世界各地でさまざまな記念の企画や出版があい次いでいるとか。日本だけ考えても、少なくとも長老改革派の伝統を継承する諸教会では、信仰の手引き、ひいては受洗準備教育等で最も広く用いられているのが、この信仰問答であることに疑問なかろう。その意味では、今回の吉田隆牧師による訳書は、まことに時宜にかなっていることは間違いない。
 吉田師は既に一九九七年に、「ハイデルベルク信仰問答」の問いと答えの新訳を出版、続いて二〇〇五年には、本問答の特徴の一つである、膨大な「証拠聖句」も含めた訳を刊行しており、今回の訳書によって、極言すれば、「ハイデルベルク信仰問答」について知るべきことのほとんどすべてを、邦文で手に出来ることになった。慶賀の至りである。原編著者のビエルマ博士は、改革派神学の牙城とも言うべきアメリカのカルヴィン神学校で、組織神学を講ずる代表的な現役の研究者であり、かねて吉田牧師とも親交があると聞くので、本書は最適の日本語訳者を得たことになろう。
 全体は二部に分かれる。第一部「歴史研究」には、本信仰問答が制定されたドイツの南西部ライン・プファルツ地域の信条的変遷(カトリック、ルター派、改革派)の略述、本問答の目的と執筆者、さらにその原資料と神学、現存する古い諸版、最後に主要な研究文献の紹介が含まれる。第二部では、本問答の主要な執筆者と想定されるツァハリアス・ウルジヌスの大小二つの信仰問答が紹介されるが、 「大問答」は我が国では初訳である。加えて、評者を驚かせたのは精密な注で、全体三〇〇頁余の約四分の一が、詳細な注記である。あらゆる意味で、この訳書は「ハイデルベルク信仰問答百科全書」と呼んで何の差し支えもないだろう。
 評者自身は、石丸新氏ら先師にも導かれつつ、かねて「ハイデルベルク信仰問答」の邦訳の歴史に関心を懐き続けてきた。本問答の通奏低音とでも呼ぶべき、第一問の日本語訳の変遷を見比べるだけでも興味は尽きない。明治初年のE・D・ミラー(『聖教信徒問答』一八九一年改訂版)から始まって、A・D・グリングの『鄙語海徳山問答』、同『基督教海徳山問答』、戦後の竹森満佐一、登家勝也、高崎毅志、吉田隆、田部郁彦等々、文字通り枚挙に暇がない。ドイツ語原文では僅か一〇語の第一問の訳文にして既にそうである。短いだけに、日本語訳が難しくなる。ついでながら評者自身は、かねがね「生きている間も、死に臨んでも、あなたの唯一の慰めは何ですか」と訳してみたりしている。
 この度、本訳書を手にして初めて、本問答の原資料として、ウルジヌスの大・小二つの教理問答に触れることができた。訳者はわざわざラテン原文に戻って訳出した由であるが、その第一問にはこうある。「生きている時と同じように死ぬ時にもあなたの心を支える、あなたの慰めは何ですか」(小問答)。「生と死において、あなたはどのような確かな慰めを持っていますか」(大問答)。評者自身がそれなりの年齢に達し、しかも、忘れようにも忘れられないあの三・一一に直面し、「死ぬ時にも」であろうが、「死において」であろうが、決して他人事では済まされない思いひとしおである。
 評者が中でも教えられるところが多かったのは、編者ビエルマ教授自身が執筆した(注を含めると)五〇頁にも及ぶ第三章「『ハイデルベルク信仰問答』の資料と神学」である。結論的に言えば、本問答の背後には、既に半世紀にも及ぶ福音主義教会改革の努力が、ツヴィングリ、ブリンガー、カルヴァン、加えて(ルター派の)メランヒトンの弟子たちの間に共通の神学的土台としてあり、その上に驚くべきコンセンサスが創出されたことになる(一一七頁)。以後、四五〇年に及ぶ汎用性も首肯に値しよう。それは「最善の宗教改革的エキュメニズム」(一一三頁)だったからである。
 なお、評者自身としては、全部で一二九の問答の内、少なくとも三五はエムデン(後にロンドン亡命者教会)の指導者ア・ラスコに遡るという、少し古くはなったが研究者バード・トンプソンが肯定的に引挙されている点(一一一頁)に注目した。ただし、評者自身がア・ラスコ原典に当たったかぎりでは、少なくとも第一問に相当する文言は見いだされなかった。枝葉末節を別として、翻訳の労苦に深謝し、訳文の正確さに賛辞を呈して、「紹介と評」に替えたい。それにしても、最も適切な謝意の表明は、ともあれ「ハイデルベルク信仰問答」そのものを手に取ることに違いない。

(でむら・あきら=東北学院大学名誉教授)

『本のひろば』(2014年3月号)より