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内容詳細

新渡戸稲造研究の集大成!

『武士道』の著者であり、明治から昭和初期にかけて、教育者、国際人、ジャーナリスト、社会改良家として、国内外にわたり多面に活躍した、新渡戸稲造。

本書はこれまでの研究の集大成として、その生涯、交友関係、家系、著作、思想、揮毫、教育、学校など多角的観点から「新渡戸稲造」に光をあてた画期的な『事典』。新渡戸研究の第一人者・佐藤全弘氏による伝記も収録。さらに詳細な年譜を付した。今後の研究の基盤を据える基礎資料として、没後80年を記念して出版される、「新渡戸稲造」を知りたいすべての人に送るハンドブック!

《目次》

I 新渡戸稲造の生涯
II 周辺の人物、関係の事項、学校、土地、新聞・雑誌
III 新渡戸稲造年譜・家系図・文学作品に見る新渡戸
IV 揮毫・著した書物・『新渡戸稲造全集』『新渡戸稲造研究』『新渡戸稲造の世界』総目次・関係主要文献
V 協力いただいた個人と団体・関連の記念館・記念文庫

 

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書評

現代に捧げる『新渡戸稲造事典』

湊 晶子

 新渡戸稲造が教育者、国際人、ジャーナリストとして残した業績は、和漢洋の広きにわたり、とても一人の研究範疇に収まるものではない程である。賀川豊彦は「『巨大なる世界人──イナゾウ・ニトベ!』と一口で説明するには困難を覚える」と述べた。

 この度没後八〇年を記念して新渡戸研究の第一人者であり大阪市立大学名誉教授である佐藤全弘氏と財団法人新渡戸基金事務局長の藤井茂氏が『新渡戸稲造事典』を教文館から共同で出版された。本書は、これまでの研究の集大成として、その生涯、交友関係、家系、著作、思想、揮毫、教育、学校など多角的視点から光を当てた画期的な事典である。一般に著作集がすでに出版されているのにそれに加えての事典が出版されることは珍しい。ここに新渡戸の広範囲の活動の特質が窺える。

 本事典の特徴は次の五点に纏められよう。

 一、「巨大なる世界人」と賀川が集約した新渡戸の行動、著作、関連出来事は、二七四頁にわたる詳細な年表に纏められている。新渡戸稲造の生涯の年表だけではなく、曽祖父新渡戸維民の誕生(一七六九・明和六年)から稲造のカナダ・ビクトリア市ジュビリー病院での死(一九三三・昭和八年)までを二五〇頁に、さらに没後から二〇一三年までの新渡戸研究の歩みを二四頁に纏め添付した貴重な年表である。

 二、家系図や揮毫など貴重な資料が二十数頁に纏められている。人に求められれば気さくに揮毫をする人柄であったため、日本全国に数多くの揮毫が残されている。アメリカの詩人ロングフェローの詩集 Voice of the night の中の詩“A Psalm of life”の一節で、一九世紀アメリカで広く愛唱された詩“Act in the living Present Heart within and God  oʼerhead”が、金色紙に揮毫され東京女子大学の学長室に掲げられている。学長時代に日々励まされた。

 三、国内外にわたり交友のあった人物二九七名が日本人編と外国人編に分けて、一四八~二七六頁に亘って写真入りで紹介されている。国境を超えての政治、経済、文学、宗教界の人々との交流が「巨大なる世界人」を生み出したのであろう。新渡戸の生涯は妻メリー・パタスン・エルキントンなくしては不可能であったと思うが、外国人編の中の一人として取り扱われているに過ぎない点が少々残念である。

 四、関係のあった学校、土地、新聞、雑誌、著作について、他の事典類には見られない興味深いエピソードや関連事項、写真などが豊富に掲載されている。

 五、先行研究資料として、『新渡戸稲造全集(全二三巻・別巻二)』、『新渡戸稲造研究(創刊号~一五号)』、『新渡戸稲造の世界(一六号~二二号)』の総目次がまとめられている点は膨大な作品の中から資料を効率良く探すのに大変便利である。

 生涯を新渡戸研究に捧げて来られた佐藤全弘先生がこの事典のため書き下ろした「新渡戸稲造の生涯」は、先生が所有される膨大な資料から纏められたものであり読む者に深い感動を与える。「稲造理解はこれからである」と次のように閉じられる先生の文章は、今後の日本への問題提起であると思う。

 「すぐる戦時中の軍閥と同様、稲造が『武士道』で最も強く訴えたかったもの、キリストの心によって清められ高められた日本の魂を理解せず、稲造が生涯求め続けた〈平和〉を無視し、戦争を肯定するのに悪用する政治家、論者は今もあとを絶たない。また、そのような悪用を恐れて、自分も稲造の思想と信仰を十分理解せず、矢内原忠雄がその戦いの最も激しい最中に恩師の『武士道』を日本語に訳した意図を察することもなく、武士道即右翼と独断し、稲造その人の全体を否定する浅慮極まる人が、キリスト信徒の中にさえいることは、新渡戸稲造理解未だしの感を一層深める」。

(みなと・あきこ=東京女子大学前学長)

『本のひろば』(2014年3月号)より