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内容詳細

魂を救う言葉とメロディー
人々の罪のために十字架につけられて死に、復活されたキリスト。その復活の喜びに溢れて、心から神を賛美せずにはいられなかった人々がいた、時代や地域を越えて歌い継がれる、レント・イースターの賛美歌の作詞者・作曲者たちをめぐる逸話満載のエッセイ集。

〈目次より〉
1 M. ルターと復活の賛美歌
2 英語賛美歌の父 I. ウォッツ
3 P. ゲルハルトと受難の賛美歌
4 米国を代表する賛美歌作家 F. クロスビー
5 R. ローリとキリストのよみがえり
6 テゼ共同体の賛美歌
7 躍動するアフリカの賛美歌
8 ミケランジェロの十字架像

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書評

 主の受難と復活の賛美歌を書いた人々の生涯

宗雪雅幸

 私たちが賛美歌を歌うとき、それは信仰の告白をしていることに他ならないことに気づく。神への賛美、自らの罪の告白、神への願い祈りを賛美歌を歌うことで祈っている。

 賛美歌は私たちの心を捉えてやまない。この賛美歌をつくり私たちの祈りを最高潮に導いてくれる人々を描いたこの書物をひもとくとき、著者の綿密で縦横な調査に感動する。賛美歌作詞家、作曲家の生い立ち、時代背景、生涯を綿密に俯瞰する。また賛美歌歌詞の元の詩を「私訳」という形で忠実にその内容を示してくれる。私訳は翻訳された詩の元の心をより詳細に深く掘り下げたもので私たちの賛美歌理解に極めて有益である。二〇一七年一〇月三一日は、マルティン・ルターがヴィッテンベルク城教会の扉に『九十五箇条の提題』を掲げてから丁度五〇〇年に当たる記念すべき時である。一般に「宗教改革」と呼ばれるルターの行動は当時のローマ・カトリック教会の腐敗を弾劾することにとどまらず「神の義」とは何か、「信仰によって義と認められる」とは何かを問う根源的な問いであった。

 ルターは破門されるが屈することなく、それまでラテン語訳しかなかった聖書をドイツ語に翻訳して出版する。その数十年前に発明されたグーテンベルク印刷機が使われた。そしてルターのもう一つの偉大な功績は会衆が歌える賛美歌を数多く作ったことだ。今も広く歌われる讃美歌二六七番「神はわがやぐら」は特に名高い。聖書が自分の国の言葉で読めるようになったこと、賛美歌を自分たちの言葉で親しみのある曲で歌えるようになった扉を開いたのがマルティン・ルターであった。

 著者は生き生きとその詳細を知らせてくれる。キリスト教は真に民衆のものとなった。

 その後の賛美歌の発展は目覚ましい。著者は英語賛美歌、米国での発展、テゼ共同体賛美歌、アフリカの賛美歌等について詳細に解説し私たちの目を開かせてくれる。中でも米国のファニー・クロスビーという目の見えない女性賛美歌作詞者の紹介に胸を打たれる。娘が生まれつき一生目が見えないと絶望する母に、ファニーの祖母が言う。

 「あなたが祈り求めているものを神があなたに与えることを望まれないのなら、祈りが聞かれないというのが、あなたにとって最善なことですよ」。

 この祖母の信仰があって、ファニーは一〇歳になる前には毎週聖書を暗記する。そして賛美歌作家となる。九五年の生涯に約八千もの賛美歌歌詞を書いたという。代表作は讃美歌四九五番「イエスよ、この身をゆかせたまえ」。

 著者の大塚野百合さんは米国クラーク大学留学、イエール大学神学部の研究員を務め、恵泉女学園短大、同大学で教授として西洋史、英語、英文学を担当した。現在名誉教授。分かりやすく親しみやすい、それでいて深い洞察力に基づく「感動に満ちた」キリスト教書籍を数多く刊行するなど優れた啓蒙活動の功績によって二〇〇四年には「キリスト教功労者」を受賞。数度にわたるガンを克服し、九〇歳を超えてなお、キリスト教講座、講演を精力的にこなしている。二時間の講演を全く原稿を見ずほとんど立ち放しでこなす。賛美歌を歌うアルトの声が美しい。その生い立ちは著書『出会いのものがたり』(二〇〇九年、創元社)に詳しい。

 スイスの著名な人格医学者ポール・トゥルニエは言っている。

 「人生には少年から青年へと、青年から老年への二つの転換期がある。第一の場合は『成熟への進展』、第二は『新しい開花』です。新しい開花は、職業的活動ではないので義務づけられたものではなく、あくまでも『人間への愛情』に基づくものなのです。これは逃避ではなく、社会への参加となるのです」。

 大塚野百合さんはまさに「開花」真っ最中である。探究心に溢れ、世を憂い、今こそ新たな「宗教改革」が必要であると力説する。次の著作を期待したい。

(むねゆき・まさゆき=学校法人恵泉女学園理事長)

『本のひろば』(2017年6月号)より