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内容詳細

神を信じる理由はあるか?

脳科学は神秘体験を解明できるのか?

宗教は、善いものか、悪いものか?

 

だれもが抱く素朴な疑問を皮切りに、宗教哲学の中心的課題についてくり広げられる、信仰者と懐疑論者の対話。

白熱する議論の行方を見守る読者にも、人生哲学の問い直しを促す〈真実探求の書〉。

 

 

著者 

ジョン・ヒック(John Hick, 1922.1.20-2012.2.9)

英国の宗教哲学者・神学者。宗教多元主義の唱導者として世界に名を成した。遠藤周作はヒックの宗教思想から晩年の小説『深い河』の創作に深い影響を受けた。

著書『神は多くの名前を持つ』(1986年、岩波書店)、『宗教多元主義――宗教理解のパラダイム変換』(法藏館、1990年/増補新版、2008年)、『もうひとつのキリスト教――多元主義的宗教理解』(渡部信との共訳、日本基督教団出版局、1989年)、『宗教がつくる虹』(岩波書店、1997年)、『宗教多元主義への道――メタファーとして読む神の受肉』(本多峰子との共訳、玉川大学出版部、1999年)『宗教の哲学』(稲垣久和との共訳、勁草書房、1994年/ちくま学芸文庫、2019年)『ジョン・ヒック自伝――宗教多元主義の実践と創造』(トランスビュー、2006年)など多数。

 

訳者 

間瀬啓允(ませ・ひろまさ)

1938年生まれ。1974‐75年英国留学にてジョン・ヒックに直接に師事、わが国にヒックを紹介した。慶應義塾大学名誉教授。

 

 目次

第1章  異なる論点の明確化――自然主義vs 宗教

第2章  神の存在は証明できるか?

第3章  神という言葉で意味するものは?

第4章  超越性抜きの宗教とは?

第5章  宗教体験

第6章  宗教体験を信用する!

第7章  宗教的な矛盾にもかかわらず?

第8章  脳科学と宗教体験

第9章  脳科学についてのさらなる言及

第10章  キリスト教にとっての意味の含み

第11章  イスラームにとっての意味の含み

第12章  諸々の宗教――それは善いもの、悪いもの?

第13章  苦しみと邪悪

第14章  死後のいのちとは?

第15章  宇宙的な楽観論

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書評

<本のひろば2021年10月号>

対話形式によるヒック思想入門
〈評者〉若林裕

 宗教に興味ある人はもちろん、その問題性を感じる人、信仰に疑問を抱く人、あるいは自然科学と宗教の立場を比較したい人などに、お勧めしたいのが本書です。
 著者ジョン・ヒック(1922─2012)は宗教多元主義の提唱者で、20世紀の英国を代表する高名な宗教哲学者・神学者です。本書は「宗教に懐疑的な一般人」向けに著され、宗教と科学に関わる問題の論点を整理し、宗教の立場を読者が容易に把握できるよう、宗教に懐疑的な科学主義者と、ヒック自身との忌憚ない論議という対話形式で展開されます。2010年に出た原著は頁数180頁程で、大部の著作ではありませんが、英語圏を中心に20世紀の宗教界、哲学界に影響を及ぼした、著者の宗教思想全体も概観できる最晩年の一書です。その意味では「ヒック思想入門書」としても役立つと思います。
 本書は15の章によって構成されていますが、内容的には大きく分けて「神(超越者)の理解」、「宗教体験」、「宗教多元主義」、「宇宙的楽観論」を中心的なテーマとして捉えることができるでしょう。
 最初にヒックは、超自然的なものを否定し、物質存在などに基盤を据える自然主義(科学主義)と宗教信仰との相違を明確にします(一章)。次に伝統的なキリスト教の神理解の批判(二章)と共に、「神」の実在を否定する非実在論に立つ、現代的な神理解の問題も指摘します(四章)。彼のいう「神(超越者)」は、エビデンスの類推から導き出されるのではなく、あくまでも宗教体験に基づく高次の
実在なのです(六章)。また脳科学などが主張する心脳同一論等に即し、宗教体験を脳内事象としてのみ解明するといったことにも、彼は深刻な疑義を呈します(八、九章)。
 さて宗教多元主義は、それぞれの宗教の実在に関わる真摯な宗教体験を、均しく究極的実在への応答として捉えるものです。( 七章)。また宇宙的楽観論(Cosmic Optimism)が意味するのは、この世で私たちが厳しい現実の中にあっても、実在を信じて生きる限り、必ずや良き方向
へと導かれるとの確信を得ることなのです(一五章)。よって、現世はあくまでも「人間形成の場」であり(一三章)、私たちの生は、今生だけでは終わらないものとされます(一四章)。
 なお宇宙的楽観論に関わり、ヒックは、永遠の仏性、輪廻転生、涅槃といった事柄などにも言及しており、彼の仏教に対する深い共感も、そこに読み取れます(一五章)。また宗教とは、この世の文化現象に止まらず、私たちにさらなる生への希望を与えるものではないかと、知らされます。
 翻訳は、日本におけるジョン・ヒック研究の第一人者、間瀬啓允氏の監訳。巻末の「監訳者あとがき」には「心の平和/魂の平和の実現に向けて」終生尽くしたヒック、さらに彼の著作が遠藤周作へ与えた影響も、簡潔に紹介されています。訳業はヒック研究に携わっている慶應宗教研究会の皆さんとの「協働」の由。平易な翻訳に感謝します。

若林裕(わかばやし・ひろし=牧師・同志社大学嘱託講師)