税込価格:5060円
購入サイトへ 問い合わせる
※在庫状況についてのご注意。

内容詳細

詩編は魂のすべての感情の解剖図!

詩編作者ダビデの中に自分自身を見出し、慰めと励ましを得ていたカルヴァン。
彼の魂の遍歴と神学の全貌を『詩編注解』から読み解いた比類なき研究。

「カルヴァンの伝記的側面を知ることで、その神学をいっそう理解できるようになると言うことができる。それは、カルヴァンの神学的著作を歴史的文脈の中で注意深く読むことで、その伝記的側面をいっそう理解できるようになるということでもある。そのようにして、カルヴァンの詩編注解の中に、人間カルヴァンの心とカルヴァン神学の心を見出すのである。それゆえ、カルヴァンが詩編は教会にとってあらゆる種類の富の宝庫と呼んだように、詩編注解はカルヴァン神学にとっての宝庫と言うことができるであろう」(本文より)

【目次】

第一部 序論
1 詩編の神学
2 本書の目的と構成
3 中心にいる神

第二部 カルヴァンと詩編
1 カルヴァンの心
2 歴史的コンテキストにおける詩編注解
3 伝記的側面
4 ダビデとカルヴァン
5 亡命というモチーフ
6 ダビデと神の民の並行関係
7 神学的側面
8 結論

第三部 詩編の神学

第一章 三位一体の神
1 真の神学
2 適応としての神の啓示
3 神の本質
4 神の自由
5 神の他者性
6 神の務め
7 キリストの人格
8 キリストの職務
9 ダビデとキリスト
10 聖霊と信仰者
11 結論

第二章 創造主なる神
1 創造の目的
2 秩序──カルヴァンのコスモロジー
3 創造と啓示
4 神の被造物としての人間
5 神の像としての人間
6 堕落した像としての人間
7 人間の自然状態
8 サタンの役割
9 堕落と再生
10 結論

第三章 摂理の神
1 実存的なテーマ
2 エピクロスとアリストテレスに対するカルヴァン
3 現実的臨在
4 「第二原因」の意義
5 「一般的な摂理」における区別
6 「特別な摂理」における区別
7 神と悪
8 許容か御心か?
9 摂理と牧会
10 迷宮
11 結論

第四章 語る神
1 御言葉
2 御言葉と御霊
3 御言葉と聖礼典
4 解釈学
5 旧約と新約の関係
6 結論

第五章 王なる神
1 神の支配
2 天使
3 カオスと平穏──カルヴァンの現実経験
4 巡礼者また兵士としてのキリスト者
5 服従──律法の位置
6 律法をめぐるパウロとダビデの違い
7 喜びと巡礼者性
8 王と王たち
9 結論

第六章 審判者なる神
1 神の義
2 罪、罪責、罰
3 薬としての罰
4 神の怒り
5 悔い改めの機能
6 神への恐れ
7 キリストの再臨
8 死と永遠の命
9 結論

第七章 隠れたる神
1 隠れたる神の受動的側面
2 隠れたる神の能動的側面
3 隠れたる人間
4 十字架の神学
5 牧会と隠れたる神
6 信仰と隠れたる神
7 結論

第八章 聖なる神
1 聖化と義認
2 律法の第三用法
3 人間論的問題──同時に罪人
4 リタージーの目的
5 天の劇場としての礼拝
6 旧約と新約におけるリタージー
7 結論

第九章 契約の神
1 神と人間の関係
2 約束と義務
3 契約と信仰
4 旧い契約と新しい契約
5 契約の対話としての祈り
6 祈りの内容と姿勢
7 祈りの益と目的
8 契約共同体としての教会
9 混合体としての教会
10 キリストとその肢体
11 教会の一致
12 教会とイスラエル
13 戦闘の教会──神とサタンの間の教会
14 宣教する教会
15 結論

第一〇章 父なる神
1 信仰への道
2 恵みの優先性
3 信仰・確かさ・約束
4 信仰の経験
5 信仰の喜び
6 信仰の戦い
7 神とサタンの間の人間
8 信仰者の弱さ
9 誘惑に抵抗する手段
10 神の恵みへの疑い
11 予定論
12 選びの焦点
13 選びと遺棄
14 結論

第四部 エピローグ
1 カルヴァンの神学
2 カルヴァンとルター
3 カルヴァンの霊性
4 カルヴィニズムの霊性

訳者あとがき
索引

在庫表示は概要となります。詳しくは「問い合わせる」ボタンから直接出版部にお問い合わせください。

書評

<本のひろば2021年10月号>

中心にいる神
〈評者〉大石周平

 本書は、「カルヴァンの詩編注解というパレットの色彩」(クロースターマン)を豊かに用いて、その「神-学」(theo-logie)の全体像を描いた作品です。オランダ・アペルドールン神学大学のセルダーハウス教授には著作が多くありますが、中でも代表的な書として、学会・教会の枠組みをこえて読まれてきました。オランダ語原著出版から20年を経ての邦訳です。アペルドールンで学んだ石原牧師の正確な訳文から、原文の明瞭な文体が透けて見えるとともに、言葉に真摯に向き合う訳者の誠実な人柄も窺えます。
 『中心にいる神─カルヴァンの詩編の神学』という原題に表されるとおり、本書を構成する全四部、なかでもページ総数の八割を占める第三部の内容は、ただ神に集中しています─第三部全10章の見出しは、三位一体の神、創造主なる神、摂理の神、語る神、王なる神、審判者なる神、隠れたる神、聖なる神、契約の神、そして父なる神です─。著者によれば、「カルヴァンにおいては……神論としての神学が中心にあるという命題」(14頁)が一貫しています。
 一方、『綱要』冒頭にあるとおり、神認識が自己認識と表裏一体であることが、その神学を語る上では大切です。1557年夏、注解序文を執筆した円熟期のカルヴァンは、珍しくも人生を回顧し、さまようダビデと自らを重ねながら、詩編を「魂のあらゆる部分の解剖図」に喩えました。詩編が剥き出しにした痛みや苦しみ、不安や混乱など、「人間の内面を揺さぶるすべての感覚」(32頁)は、「高い乳児死亡率、ペスト、信仰者への迫害」(409頁)の時代を生きた人間カルヴァンのものでもあったからです。
 本書の際立つ点は、亡命者カルヴァンの霊性に関わる伝記的側面を割引なく見つめるところにもあります。たしかに、注解書自体に語らせる本書では、『綱要』諸版も他の注解書も論文も、手紙も祈りも詩編歌も脇に置かれるため、彼の人生のどの体験が視座を与えたか、誰との対話が背景にあるか等、厳密な意味での史的研究は展開されません。評者ポール・ヘルムが、最も影響を与えたアウグスティヌスの言及が少ないと指摘しましたが、教父の影響も、他の改革者や敵対者との対話と緊張の背景も追求しないのは、カルヴァンの声を読者にまっすぐ伝えようとの配慮の結果でしょう。ルターとの関係については、例外的にエキュメニカルな関心に応え、詩編理解の深い一致が指摘されます(404頁で「ルターの弟子」と誇張するほどに!)。史的には、詩編注解序文執筆時にこそルター陣営との緊張が高まるのですが、本書は、本質的に同じ神の御前にあり、同じ詩編に慰めと力を得た「敬虔な者の一致」に目を向けるよう促します。
 カルヴァンの注解は、常に牧会的な性格を持ちますが、本書もそれを反映し、災禍の時代を生きる私たちを御前に立つ者として慰め励ましつつ、詩編を口ずさんで「神を神とせよ」(ルター)と語りかけます。

大石周平(おおいし・しゅうへい=日本キリスト教会府中中河原教会牧師)