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内容詳細

聖書の使信を現代につなぐ、待望のシリーズ刊行開始!

パウロ神学の最高傑作とも言われるローマ書。そこで彼が描こうとした「救い」「義」とは何か? 新約聖書全体をイスラエルの回復という大きな物語として捉え、そこから現代人へのメッセージを鮮やかに説き明かす。
説教黙想・聖書研究・デボーションに最適。

『N.T.ライト新約聖書講解』(全18巻)とは?
原著名はThe New Testament for Everyone。
現代の第一級の新約聖書学者にして、英国のバランスのとれた穏健な聖書解釈の伝統を受け継ぎ、教派を超えて親しまれているN. T. ライトによる新約聖書全巻の講解。

日本語版監修者
浅野淳博・遠藤勝信・中野実

日本語版刊行の言葉
N・T・ライト著New Testament for Everyone(すべての人のための新約聖書シリーズ)の日本語版刊行を、動員された多くの翻訳者と共に監修者として心から喜びます。皆さんの中にはご存知の方も多いと思いますが、著者のN・T・ライト教授はおそらく歴史上もっとも多くの読者を得た聖書学者と言えるでしょう。それは彼が第一級の新約聖書学者として認められていること、その聖書解釈がバランスの取れた穏健な英国の解釈伝統を受け継いでいること、さらに現代のキリスト教会と一般社会に対して責任感のある提案を発信し続けておられることが理由として考えられます。世界中の専門家のみならず一般読者のあいだで高い評価を得ているライト教授が、今回は「すべての人のため」に─研究者のみならず一般信徒、一般読者に向けて─新約聖書全書を分かりやすく丁寧に解説する目的で本シリーズを手がけられました。このシリーズが日本語で提供されることは、日本の教会とさらに広くは日本社会にとって、キリスト教信仰の根幹にある新約聖書に改めて親しく接する機会となるに違いありません。
ライト教授は英国オックスフォード大学で一九九〇年代前半まで教鞭を執られたのち、ロンドン中心街にある有名な英国国教会ウェストミンスター・アビーの司教座神学者として、さらにダラム英国国教会の主教として奉仕され、セント・アンドリューズ大学での教授職を経て、現在はオックスフォード大学で再び教鞭を執られています。非常に多作なライト教授の著書は、すでにその多くが日本語でも紹介されています。教授は特に全六巻からなる代表的なシリーズ─「キリスト教の起源と神の問題」─において、キリスト教起源に関わるこの重要な問題を全網羅的に扱っておられます。その中で、イスラエルの救済史の終結部、また創造秩序の回復プロセスとして教会の時代を捉え、新約聖書全体をこの大きな物語に沿った一貫したムーブメントとして理解しておられます。このような大きな枠組みで新約聖書全体を把握されているライト教授は、私たちのために新約聖書全巻の道案内をするもっとも確かな、したがってもっとも相応しいガイド役と言えるでしょう。ある種のグランド・セオリーによって新約聖書全体を俯瞰的に眺める旅においては、ときとして私たちの慣れ親しんだ視野からは気が付かない風景(解釈)に遭遇することもあるでしょう。そのような風景に刺激を受ける能動的な旅が、私たちをより深い新約聖書理解へと向かわせてくれることでしょう。
本シリーズの各巻は聖書テクストのペリコペ(単元)ごとに、ライト教授自身による原語からの翻訳で始まり、各単元の主題と関連する日常生活の逸話が続き、語彙や古代社会・文化の分かりやすい解説を含めたいわゆる「注解」の部分があり、最終的に私たち読者を深い洞察に満ちた現代的な適用へと導いてくれます。その意味で本シリーズは、すべてのレベルの読者に開かれた、もっともかみ砕かれた新約聖書注解書とも言えるでしょう。その読書体験は、現代的な逸話から古代社会の解説へと時間をさかのぼり、古代社会・文化という背景に親しみつつ教会の信仰の営みに触れ、古代のキリスト者のリアリティから現代的な適用へと引き戻されるという仕方で、単元ごとにライト教授の操縦するタイム・マシンに乗って旅をするかのようです。それは聖書知識やキリスト教教義にまつわる私たちの知的関心を満足させるのみならず、この不安な時代に置かれたキリスト者や一般読者に生きる勇気を与えることでしょう。
私たち監修者と翻訳者は、本シリーズが教会の読書会や勉強会の教材として、また個人のデボーションのパートナーとして、長く親しまれることを期待いたします。
二〇二一年早春 日本語版監修者 浅野淳博、遠藤勝信、中野 実

 

目次
日本語版刊行の言葉
はじめに
聖書略号表

ローマ書
1章1─7節 新たな王の良き知らせ
1章8─13節 ローマ信徒訪問の切望
1章14─17節 良き知らせ、救い、神の義
1章18─23節 神の拒絶と堕落
1章24─27節 不純な欲望と身体への陵辱
1章28─32節 迷走する思いと迷走する行為
2章1─11節 神の公正な裁き
2章12─16節 公正な裁きの実行
2章17─24節 ユダヤ人的主張とその問題
2章25─29節 外見、名前、意味
3章1─8節 神の揺るぎない誠実さ
3章9─20節 罪の下にあるユダヤ人と異邦人
3章21─24節 明かされた契約に対する神の公正さ
3章25─26節 イエスの死に示された契約に対する公正さ
3章27─31節 ユダヤ人と異邦人の神
4章1─8節 アブラハムとの契約
4章9─12節 割礼者と無割礼者の父アブラハム
4章13─17節 信じる者すべての父アブラハム
4章18─25節 アブラハムの信仰と私たちの信仰
5章1─5節 平和と希望
5章6─11節 神の愛と救いとを示すイエスの死
5章12─17節 鳥瞰図──アダムとメシア
5章18─21節 恵みの支配
6章1─5節 洗礼による死からの離脱
6章6─11節 罪に対する死と神に対する生
6章12─14節 聖い生き方への招き
6章15─19節 2つの種類の隷属
6章20─23節 2つの道の行方
7章1─6節 律法に対して死ぬこと
7章7─12節 律法の到来──堕落を想起させるシナイ山
7章13─20節 律法の下での生き方
7章21─25節 二重の「律法」と惨めな「私」
8章1─4節 メシアと霊における神の業
8章5─11節 霊の業
8章12─17節 霊に導かれる神の子ども
8章18─25節 再創造と待望
8章26─30節 祈り、子としての立場、神の主権
8章31─39節 神の愛から私たちを引き離すものはない
訳者あとがき
用語解説

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書評

<本のひろば2021年11月号>

聖書のメッセージを現代に伝える待望のシリーズ

〈評者〉鎌野 直人

 N・T・ライトによる「すべての人のための新約聖書」シリーズ(2001年から)の翻訳出版がついに始まりました。その第一回配本が本書です。
 このシリーズは、ペリコペごとの著者の翻訳とその注解で構成されています。注解は導入的な逸話からはじまり、紀元一世紀の文化、社会、経済、神学的な背景を踏まえた注解のあとに現代への適用が短く記されています。特に注解の部分に二〇世紀後半の新約聖書学の実りを見ることができますし、適用には教会人として英国国教会に仕えてきた著者の世界を見るセンスが表されています。巻末には、本文中にゴシック体で強調されていた用語の短い解説がまとめられており、新約聖書全体に共通した背景を見渡す新約聖書神学入門となっています。
 ライトは、ローマ書は「福音」を中心に展開していると理解しています。福音は、カエサルとは異なった王が世界の真の王となったという知らせであって、神の力です。これを聞く人に、十字架に架かって死に、神がよみがえらせたイエスを主と認めさせ、福音への確信である信仰を与えるからです。この信仰こそが、神との正しい関係の構築、すなわち異邦人とユダヤ人からなる世界大の神の民となっていることのしるしです。
 世界大の神の民の誕生という約束は、当初アブラハムに与えられました。律法とは、神がアブラハムの子孫に与えたもので、この世を罪と死から救いだすための手段でした。しかし、律法がその目的を果たせなかったので、神はイスラエルの代表であるメシア、神の子を世に遣わされたのです。さらに聖霊を送りました。人の心に働きかけ、信仰を生み出させ、いのちを与えるためです。
 神の約束は最後の審判とも結びついています。神の民は、信仰のゆえに今、メシアと苦しみをともにしますが、終わりの時には復活のからだを与えられて、彼とともに被造物を支配する栄光に入る約束が与えられています。そして、聖霊が最終的な判決の保証です。
 このように、ライトは全被造物を回復する神の約束という大きな物語の中に神の民イスラエルと神が遣わしたメシアと神の霊を位置づけています。そして、福音には現在と将来が約束されているからこそ、福音は契約に対する誠実を表す神の義だと主張しています。
 ライトの提案は、従来のローマ書理解に対して様々な改訂を求めるものです。その一方で、旧約聖書来の伝統の中でローマ書を読み直す新鮮な視点を提供しています。特に後者を評者は歓迎しています。
 ライトの著書の翻訳は簡単なものではありません。その中で、浅野氏は「すべての人のため」の注解書にふさわしい、平易なことばで、忠実に翻訳をしています。ただし、いくつかの訳語(32頁「反語」、36頁「動機が据えられている」、96頁「身体的」など)や指示語(118頁「それは」など)には検討の余地があるでしょう。

鎌野直人(かまの・なおと=関西聖書神学校校長)