『ナチスに抗した若者たち』
『ナチスに抗した若者たち その生き方を問う』
岡 典子 著
筑摩書房 刊
2026年6月 発行
1980円(税込)
256ページ
分類:ノンフィクション
対象:大人
愛と自由に生きた 普通の若者たちの物語
1933年、ヒトラーが首相の座に就いたこの時期のドイツは、不況による大量の失業者が社会にあふれ、国民は不安に駆られていました。人々は状況を打破する強いリーダーを求め、ヒトラー率いるナチスに期待したのです。ところが、政治の実権を握ったヒトラーは反対勢力をつぶし、国民にはナチスへの忠誠を強要、密告を奨励した上、若者を国家に服従する下僕として教育することに力を注ぎます。ヒトラー・ユーゲントはその最たるもので、スタイリッシュな制服やスポーツ、ゲーム、演劇などの楽しい活動、組織の「自治」などを通して若者の心をとらえ、ナチスの思想をたたき込んでいきました。しかし、幼い頃からナチスの全体主義的教育を受け、衆人環視の社会で育ってきた若者たちの中に、ごく少数ではありましたが反ナチの行動をとる者たちが出てきたのです。彼らはナチスの何に違和感を持ち、発覚すれば処刑にもつながる危険な行動をとったのか。3つのグループに焦点を当てて探っていく中で私たちは、独裁者の強いた恐怖政治が奪えなかった「自律的であろうとする人間の心」の強さを改めて知ることになります。
ショル兄妹とミュンヘン大学の学生たちによる反ナチス抵抗運動(「白バラ」)は映画や書籍でもたびたび取り上げられているため、ご存じの方も多いと思いますが、本書では同じくハンブルク大学で学生や知識人が中心となった「ハンブルク・白バラ」のほか、労働者階級の若者たちが行った「ヒューベナー・グループ」と「エーデルワイス海賊団」の活動について時系列にそって取り上げています。彼らの行動のきっかけは、外国のラジオ放送を聞いたことであったり、内心の自由に反してナチス的敬礼を強要されたことであったり、大好きな先生がユダヤ人であることを理由に解雇されたことであったり、父親が共産党員であったことを理由に「犯罪者の家族」として扱われたことであったりと様々ですが、謂れのない理不尽を体験したことに端を発しています。こうした個人的な体験や感情は、その思いを分かち合う仲間の存在と共鳴によって、具体的な反ナチス抵抗運動へとつながっていきました。そしてそこには、若者たちを見守り、時には体を張って盾になろうとした年長者たちの存在があったことも忘れてはなりません。
ショル兄妹が処刑されたように、「ヒューベナー・グループ」のヘルムートは17歳で、「ハンブルク・白バラ」のハンスは23歳で処刑、「エーデルワイス海賊団」のメンバーも懲罰部隊に送られたり、公開処刑された者が多くいました。若者たちの自らの命を危険にさらした反ナチス抵抗運動は、社会を変えることも戦争を止めることもできなかったのです。では、彼らの行為には意味がなかったのでしょうか?
自由な意思の表明や若者の政治参加など、平時であれば奨励される行動が「国家を危険にさらすもの」として取り締まられた時代に、自分が正しいと信じることのために行動する彼らは、国家を一つの思想の下に統制しようとするナチスにとって脅威以外の何物でもありませんでした。最後まで自分の頭で考え、良心に従うことを手放さなかった彼らの行動が示すものを、今の我々の社会に当てはめてみると何が見えてくるか――これは単に80年前の出来事ではないのです。(か)
