『バードボーイ』

『バードボーイ』
キャサリン・ブルートン 作
尾﨑愛子 訳
danny 絵
偕成社 刊
2026年7月 発行
1870円(税込)
286ページ
分類:フィクション
対象:小学校高学年から

覚えておくんだ ―— 傷あとは皮膚より強いってな

母親を交通事故で亡くしたウィルは、母の兄にあたり田舎の山岳救助隊で働くイアンおじさんの家に引き取られます。長いこと、心を病んだ母と二人きりで都会のアパートに閉じこもるように暮らしていたウィルは母の死を受け入れることができず、「わたしたちはみんな、鳥になってもどってくるのよ」という言葉にしがみつくようにして、周囲に心を閉ざしていました。ところが、伯父の家に来てまもなくネイチャーキャンプに参加したウィルは偶然、絶滅危惧種のミサゴを目撃します。キャンプで知り合ったアフガニスタン難民のオマールと一緒に、ミサゴを追って禁止された危険な岩の岬まで行ったウィルは、切り立った崖の上にミサゴの巣と2羽のヒナをみつけました。ヒナに名前を付けて密かに見守る二人ですが、嵐の日に巣から落ちてケガをした雌のヒナ(ホワイトティップ)をウィルが家に連れて帰り、大人には内緒で面倒を見ることになります。初めのうちはうまくいくように思えたホワイトティップの世話ですが、容体が急変して子どもたちの手に負えない事態となり……。

母親を愛していても、その世話が子どものウィルには大きな負担だったことは容易に想像がつきます。母親から逃げ出したことがその死の直接的な原因になったことで自責の念にかられるウィルは、母親の言葉の呪縛に捕えられ、己を取り巻く人々や状況に対して頑なな態度をとり続けていました。しかし、母親の生まれ変わりのように感じられるミサゴのヒナや、オマール、イアンおじさんとの出会いを通して、少しずつ周囲に心を開いていきます。何より雄大な自然とそこに宿る命の存在が、ウィルに再び生き直す力を与えていく過程が感動的です。

無口で不器用ながら静かに寄り添ってくれるイアンおじさんは“命の重みを知る人”です。心の奥にしまっていた本当の気持ちを打ち明け、泣きじゃくるウィルを、「おまえのせいじゃない」としっかりと抱きしめてくれるおじさんがいてくれれば、ウィルはつらい記憶を乗り越えて未来への一歩を踏み出すことができるだろうと、ラストには明るい希望が感じられます。(か)

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