『刑務所の文章教室』
『刑務所の文章教室 言葉が心をほどくとき』
大塚敦子 作
紀伊国屋書店 刊
2026年7月 発行
2200円(税込)
256ページ
分類:ノンフィクション
対象:大人
受刑者たちは、どのような文章を紡ぎ、どのように変わっていったのか
ジャーナリストでノンフィクション作家の大塚敦子さんは、20年近く刑務所における教育プログラムに携わってこられました。2018年からは「文章創作プログラム」をスタートさせ、現在では島根あさひ社会復帰促進センター(島根県/男性刑務所)と、美祢社会復帰促進センター(山口県/女性刑務所)、喜連川社会復帰促進センター(栃木県)の3か所で同プログラムを実践中です。そこで受講生たちはどのような言葉を紡ぎ、言葉にすることで何が変わったのか、その軌跡を丁寧に追ったのが本書です。
大塚さんは文章教室を開かれる前に、島根あさひセンターで「盲導犬パピー育成プログラム」を行っていました。これは訓練生(島根あさひセンターでは受刑者をこう呼びます)たちが共同でパピーウォーカー(*)の役割を担うことで様々な感情を体験し、チームの複雑な人間関係の中で多くの苦労や努力を重ねることを通して学びを得るという非常に稀有なプログラムです。しかし、それほどの深い体験をしながら「よかった」という一言でしか表現できない人たちがいることに気づいた大塚さんは、自分の思いを「書く」訓練が必要だという結論に達します。単に日常を記録するのではなく、自分の心と向き合うように「書く」作業は、欧米でリフレクティブ・ライティングと呼ばれ、病院や刑務所と言った場所で広く実践されています。大塚さんはアメリカやイギリスで学びを得た後に、島根あさひセンターで「心のライティング」講座をスタートさせたのでした。
島根あさひセンターや美祢センターでの具体的なプログラムと、受講生たちが講座の中で書いた詩や感想文には心打たれます。それは、言葉によって育てられる経験の乏しかった人たち、自分の思いを伝えたり、相手のことを思いやる言葉を持たなかったがゆえに犯罪を犯してしまった人たちが、自分という存在を安心して受け止めてもらえる環境に置かれて、初めて出すことのできた心の声だからなのでしょう。
本書は、彼らが己の犯した罪に向き合い本当の社会復帰を果たすためには、言葉を持つことがいかに重要かつ不可欠であるか示してくれる希望に満ちた作品であり、同時に私たちがどのような社会を望むのか――彼らを犯罪者として排除するのか、共に生きる社会の一員として包摂するのか――を問う作品でもあります。(か)
*パピーウォーカーとは、盲導犬候補の子犬(パピー)を生後2か月ごろから1歳になるまでの約10か月間、一般家庭で預かって育てるボランティアのことです。
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