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1750年にヨハン・セバスチャン・バッハが死の床に就いていた時、彼の書架にはどんな書物があったでしょうか。


 彼の遺産目録にはそうした書物の一覧がありますが、その大半は散逸してしまいました。
 しかし、幸運なことに、バッハにとって最も大切な書物であった三巻本の聖書はアメリカ・セントルイスの或る図書館に現存することが分かりました。
 この聖書はバッハ自筆の書き込みがある、彼の生涯に関する最重要資料の一つです。この度、本書のファクシミリ版が出版される運びとなりました。

バッハの聖書


バッハ自身による書込み


 バッハは300年ほど前の1685年から1750年にかけて生きた人です。彼の生涯については、驚くほど多くの資料が残されています。そうした資料の大半は楽譜の手稿(Musical Manuscripts)で、その他に領収書や公文書といったごく一般的なものや、親しい友人たちへの手紙のような、非常に私的なものではありながらも、他人の目に触れるのを前提に書かれたものが残っています。


 バッハが自分のためだけに書き記したもので、ただ一つ私たちが目にすることができるのは聖書への彼の書き込みです。バッハ自身の他には、彼の妻アンナ・マグダレーナだけがこれらの書き込みを見たことでしょう。


 バッハにとって聖書は、ただ書棚に収めておいたり、カンタータの歌詞をそこに求めたりするだけの書物ではありませんでした。彼は、聖句に下線を引き、欄外にコメントを書き、更には誤植を訂正し、時にはルターの著作からの引用によって欠けている語句を書き足すほどに、非常に注意深く聖書を研究していたのです。


バッハと聖書を読む


 バッハの作品の中で聖書は重要な役割を果たしています。彼は、自分の曲に歌詞をつける際に多くのテクストを聖書から直に引用していました。そして今、バッハの机上にあった聖書を誰でも手にすることができるようになります。つまり、私たちはバッハとともに聖書を読むことができるのです。


 このバッハの聖書は、その刊行者の名にちなんで「カロフ聖書」とも呼ばれ、聖書本文と注解も含むものでした。この聖書を作った神学者アブラハム・カロフ[Abraham Calov(羅Calovius)]が聖書本文に注解を行い、その際に彼はルターの著作を頻繁に参照して、彼の聖書への重要なコメントをこの三巻本の聖書の中に採録しています。


 この『バッハ・カロフ聖書』は、バッハが創作の際に座右に置いた聖書を私たちも読み、又、眺めることができるようにしてくれたという点で、何物にも代えがたい感動的なモニュメントです。それだけでなく、この聖書はバッハその人の内面世界――つまり彼の信仰―――を養い育てた様々なテクストに直に接する機会を私たち与えてくれるでしょう。