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内容詳細

イラストで読む神学入門シリーズ

18世紀に、英国国教会の司祭として、メソジスト運動と呼ばれる信仰復興運動を指導し、伝道者として活躍すると同時に、社会改良運動にも取り組んだウェスレー。彼の生い立ちから、アメリカにまで渡った宣教への熱意と挫折、メソジスト・ソサエティの形成や、聖化論や予定論などの神学的展開、そして「キリスト者の完全」を説く彼の倫理観・美徳観に至るまでを、ウェスレー研究の第一人者が書き下ろした入門書の決定版。

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書評

今日における最良の入門書

岩本助成

 第十八世紀のアイルランド宣教は「死を決意した伝道者にのみ可能な事業」といわれた。イングランド国教会司祭ジョン・ウェスレーは、母国やウェールズやスコットランドでの宣教のほか、四十年間に二十一回も荒海を越えてアイルランドに渡り、各地を巡って聖書を説き続けた。その間の牧会書簡の多さに驚かされる。本書はそのアイルランド・メソジスト出身の神学者W・J・エイブラハム博士によって書かれた。ウェスレー自身に多くを語らせて虚像からの脱却を試み、研究に新しい視点をもたらすウェスレー神学の入門書である。

 著者はベルファストのクイーンズ大学、米国のアズベリー神学校で学び、オックスフォード大学(リージェンツ・パークス・コレッジ)で学位を得た。現在、米国合同メソジスト教会聖職者であり、南メソジスト大学パーキンス神学校の名誉ある「アルバート・アウトラー教授職」にある。最近も『オールダースゲイトとアテネ』や『オックスフォード組織神学ハンドブック』の「神論」を書くなど、学界の注目を集める教義学者、宗教哲学者である。研究領域は神論や聖書正典論だが、教会の霊的刷新や宣教問題にも関心を持つ。

 本書はウェスレー神学が教会の伝統的本流に立つと述べ、時代が投げかける神学的な課題に答え、「応答する恵み」を統合的に強調するその独自性に迫ろうとする。入門書には珍しくウェスレーの神学的貢献面と共に問題点を率直に記している。賛否両論があろうが、初学者にも研究者にも発見と啓発と洞察を与える最良の入門書と言えよう。

 エイブラハム博士は「時の流れ」を読みつつ第十八世紀の歴史的背景を分析する。「五つの神学的な分水嶺」を論じながらジョン・ウェスレーの生涯を点描するが、一読して原資料を綿密に検討していることが分かる。ウェスレー神学の核心を創造、堕罪、先行の恵み、特に、救い(義認、新生、聖化、キリスト者の完全、確証)へと論じ進み、教会論、恵みの手段、キリスト者の倫理を経て、摂理と予定論を取り上げる。その予定論に「ウェスレー神学の深み」と「神学全体への影響」を見て独自な予定論を跡付けている。

 「恵みによって、すべての人は、その罪が洗いきよめられ、神の愛を生きるようになることができる。それがウェスレーの神学的確信であった」(五三頁)。「すべての人」と言うが、著者は当時の一貴婦人がウェスレーの活動を上流階層への反逆と捉えた事実を彼女の手紙で例証する(一三〇頁)。社会や教会から締め出されたアウトサイダーへの彼の宣教は、確かに危険視された。明日を生きる活力を失いがちな一般民衆層に、救いの福音の力動性を体験させたのがウェスレーの生涯と神学であった。アウトラーの古典的表現では、「民衆神学者」(『ジョン・ウェスレー』プロテスタント思想叢書、オックスフォード大学出版局、一一九頁)にして初めて可能な神学活動であった。「ウェスレーは、私たちが神を信じるとき、私たちは神の愛に魅了され満たされ、私たちの内側に大変革が起こると確信していた」(一一一頁)。ウェスレーの神学的な「確信とは、主権者なる神は、ご自身が抱いておられる目的を、人間がどのように立ち居振る舞おうと、歴史と永遠の双方の領域において、ご自身の存在をかけて実行されていく、ということ」(二二二頁)などの叙述が味わい深い。

 訳者に求められる資質は語学力、時代感覚と専門的な知識であろうが、これら諸条件を満たす訳者を得て本書は真価を発揮している(五六頁の「新しい出発」、八〇頁の「概念空間」、一三六頁の「古典的」ほか、「遍在」の誤植が惜しまれる)。原書と比べつつ読んだが、「これこそ翻訳!」と楽しく読み終えた。加えられた邦語参考文献表も明日の学びを助ける。

(いわもと・すけなり=日本フリーメソジスト西田辺伝道所牧師、前日本ウェスレー・メソジスト学会会長)

『本のひろば』(2013年10月号)より