税込価格:4104円
購入サイトへ 問い合わせる
※在庫状況についてのご注意。

内容詳細

「愛」を愛する者から恩寵の対象へ!

植村正久、小崎弘道、高倉徳太郎、石島三郎などを通して日本に紹介されたフォーサイス神学。それは、信仰と教会の基礎として、日本のキリスト教の形成に大きな影響を及ぼした。当代きっての研究者たちがさまざまな角度から、堅実で強力なフォーサイスの神学について論じ、その全体像を明らかにする。フォーサイスの娘による「父の回想」も収録。

在庫表示は概要となります。詳しくは「問い合わせる」ボタンから直接出版部にお問い合わせください。

書評

贖罪信仰の意義を鮮やかに語る神学の魅力を伝える

大宮溥編

フォーサイス神学概論

十字架の神学

 

森島豊

日本において会衆派神学者P・T・フォーサイスの魅力を広く知らしめた大宮溥氏によって、さらに素敵な書物が出されることになった。大宮氏を含めた十五名によるフォーサイス神学に関する論文集である。内容は大きく三つに分けられる。一つはフォーサイスの娘による回想録。一つはフォーサイスの学位授与百年を記念して出版されたものを中心とした論文集。最後に大宮氏自身の博士論文である。

何と言ってもこの書物に大きな価値を与えているのは、フォーサイスの娘による回想録が訳出されていることである。フォーサイスに関する優れた論文は幾つもあるが、この回想録に勝るものはなく、これからも出ないであろう。学術論文ではなく、とても短い詩のような文章であるが、フォーサイスを最もよく理解した言葉である。「彼をよく知っている者だけが本当に彼を理解できるのだ。なぜなら、彼は自分の最善の部分を自分の本の中には書き込めなかったからだ」(一一頁)という言葉が紹介されているが、これはまさにフォーサイスの最善の部分をよく表している文章である。訳文もとてもよい。フォーサイス神学に関心がなくとも、教会に生きる者であるならば、この文章は一読の価値がある。

第二は、フォーサイスの学位授与百年を記念して開催された協議会での諸論文をトレバー・ハートが編集して一九九五年に出版したものを中心に訳したものである。コリン・ガントンなど日本でも知られている神学者もいるが、その多くが英国で現在活躍しているまだ知られていない神学者達である。この論文集の優れたところは、異なるパースペクティブからフォーサイス神学の様々な側面を論じていることである。例えば、フォーサイスの贖罪論や祈りについては広く知られているが、彼が芸術や政治経済、戦争や神義論の問題にまで語る言葉を持っていたことはあまり知られていなかったであろう。しかも、それらの事柄がすべて十字架の神学によって語る言葉を得ているのである。このことが本書の主題と副題となって表れている。

紙面の関係上すべてを紹介できないが、贖罪を権威と自由との観点から論じたガントンの論文は力量を感じさせる。神義論に話が及んだホールやセルの叙述は示唆に富んだものである。特にホールがフォーサイスの言葉を受けて、「われわれの信頼と希望は、世界の秩序にかけられているのでなく、それを『超えたもの』にかけられている。世界の動揺と悲惨といえども信仰を破壊するものでない」(一三二頁)という行は、大震災を経験した我が国において教会の語るべき神の聖なる愛への絶対的信頼が言い表されている。社会倫理について述べたクレメンツは、教会形成の視点を欠いているが、特徴をよく捕えている。ヘーゲルからの影響を、芸術との関係で論じたベックビーと、法概念との関係で論じたラッセルの論文は刺激的である。バルトとの関係を比較検討したトムソンの論文も興味深い。最後にフォーサイス神学における権威の理解とその今日的意義を論じている大宮氏の論文において、当時の神学的戦いとドイツ神学からの影響を考察しているところが興味深い。

訳語に関して、レーマン・ビーチャーはライマン・ビーチャー(二三、一一八頁)、執筆者のベックビーは目次と本文で名前の表記が異なっている(二六五頁)、出典を示す「再一致」(一八八、一七〇頁)「再合同」(一八七頁)は「再統合」、pleaching(一九八頁、注42)はplacarding, 所々鉤括弧の抜けている等の誤植があるが、これらは本文の質を損なうものではない。ただ、脚注で出版物など出典を略してある書物は原書のフォーサイス関係文献表に拠っているのであるが、それを掲載していないので、さらに研究を深める者には原書の文献表に当たらなければならない。それにしても、贖罪信仰が私どもの生活の様々なところに現実的意義をもつことをここまで鮮やかに一貫して語り得たフォーサイスの神学的思索力に驚きを感じる。ご多忙の中でこの労を執られた編著者に感謝したい。

(もりしま・ゆたか=日本基督教団長崎平和記念教会牧師)

(A5判・四八二頁・定価三九九〇円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2011年12月号)より