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内容詳細

イラストでよむキング牧師の生涯と思想!

 

20世紀のアメリカにおいて人種差別撤廃、貧困層救済、反戦等の運動を指導したキング牧師。「私には夢がある」と語り、非暴力に徹しながら正義を希求した彼の生涯と思想を、ユニークなイラストとともに辿る。

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書評

イラストもあるキング牧師の神学入門書

R・バロウ著

山下慶親訳

はじめてのキング牧師

栗林輝夫

マーティン・ルーサー・キング・ジュニア牧師が、二〇世紀において最も著名な、そして同時代の歴史に忘れ難い刻印を残した偉大なキリスト者だったことは言うまでもない。アメリカの公民権運動の最先頭にあった指導者として業績は今日も世界各地で語り継がれている。

本書は、ウェストミンスター/ジョン・ノックス出版が神学者の入門的解説シリーズとして企画したなかの一冊で、すでに教文館からはルター、カルヴァン、ジョナサン・エドワーズ、バルトが翻訳され出版されてきた。

今回、神学者キングの紹介のペンをとったのは、キングの人格主義的色彩が濃い神学や倫理の研究で手堅い評判をもつバロウである。キングを綴るにあたって、学識豊かな著者が選んだ手法は、キングの神学思想を時代の歴史と個人の経験に絡ませ、ダイナミックに描くことだった。アメリカの黒人差別史を概観することから始まるこの本は、第一章で奴隷制度と黒人解放宣言、その後のアフリカン・アメリカン史を一九五〇年代まで綴り、第二章でキングの家族史へと郢ォがっていく。キングは多くの著作を書いたが、いわゆる自伝を書く余裕は、突然の死により、残念ながらなかった。そんな彼に替わって、バロウは巧みにその生涯を、宗教的にも神学的にも社会的にも描き出してくれた。

特に評者が興味深く読んだのは第三章で、キングの思想的系譜、すなわちボストン人格主義、社会福音、ヘーゲル、ニーバーの読み解きだった。キングが、なぜモントゴメリー、バーミンガム、ミシシッピーと、あらゆる場に精力的に出かけ、挫けることなく運動を指導できたのか、その力の根源を知った思いだった。キングを社会運動家としてしか評価しない一部の風潮に対して、青年時代の神学的学びが、後の大胆な活動主義にいかほど深く影響を与えていたか、キングを形作り、変えていったのかが、よくわかる記述である。そのことはガンジーの思想を紐解きながら、非暴力運動の思想がどのようにキングのなかに育っていったかが、説得ある仕方で綴られる第五章にも言える。

C・カーソンなど、近年の研究も取り込み、キングの家族風景を丁寧に描きだすのも好感がもてる。黒人運動のリーダーという面だけでなく、教会の牧師として、夫として、父親としての家族の姿をよく伝えてくれている。温和な幼年期からはじまって、質問したがりの子供時代、そして差別政策に反抗して立ち上がった学生時代、それから若い献身的な牧師として苦闘した公民権運動の時代、愛すべき夫であり家庭人であった全国的運動の時代、そして人種の平等の夢を掲げて世界的に有名になった時代。そうした生涯を順を追って解説しながら、本書は、キングの神学に無理なく読者を誘い出す。キングが戦闘的であって穏健的、現実的と共に理想主義的な源は、そうした時代環境と家族の中で育まれたものだったに違いない。

私たちは神学者キングの信仰遺産を二一世紀にどのように継いでいけばいいのか。本書の後半は、キングの思想と行動を基にして、今日アメリカの教会と社会を二分するホットな争点、同性愛や女性解放などを論じている。もしキングが今生きていたら、どんな発言をし、どんなアクションを起こしただろうか。著者はそうした問いを携えて、借り物でない、自分の言葉でキングの姿を浮き彫りにする。キングときわだった位置にある黒人指導者のマルコムXに、ほとんど言及がないのは気にかかるが、それも南部黒人社会の内側から描こうとする筆者の意図によるのだろう。

キングが現代の燃え上がった課題をどう神学的に考えたのか、信仰による希望と夢をいかに紡いだかを、わかりやすく論じた本書は価値ある書である。訳者も述べているように、この本を読むことで、アメリカだけでなく、私たちの日本の状況のなかでも、もしキングが生きていたらと問いたいものである。

訳は読みやすく、数多くあるイラストも、日本のコミックとは手法がだいぶ違うものの、愉しめる。手にとって一読をお薦めしたい。

(くりばやし・てるお=関西学院大学教員)

(四六判・二五〇頁・定価一九九五円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2011年11月号)より