税込価格:1944円
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内容詳細

罪と堕落によって自ら破滅へ向かう人間に絶望し、神は洪水を起こす。それでもなお神はノアを選び、祝福と契約を与える。しかし、罪が一掃されたはずの世界で、人間は天に届く塔を建て、神になりかわろうと試みる……。原始から変わらない人間の傲慢と飽くなき欲望、そこに関わる神の裁きと赦しの意味を問う説教集。『アダムとエバ物語』も同時刊行。

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書評

審きと祝福から新しい契約の出来事へ

及川信著

ノアとバベル物語

説教と黙想

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井ノ川 勝

 『アブラハム物語(上・下)』に続き、『アダムとエバ物語』『ノアとバベル物語』が同時に刊行された。収録されている説教は全て、著者が牧会する中渋谷教会の主日礼拝で語られたものである。『アダムとエバ物語』の説教が、毎月、聖餐が行われる第一主日礼拝で語られたのに対し、『ノアとバベル物語』は二〇〇五年四月十日から九月四日にかけて、比較的短期間で語られている。集中して聴くべき御言葉であると、判断したからであろう。

 「まえがき」で著者はこのように語っている。「ノアの洪水やバベルの塔の物語の中には人間の傲慢や飽くことなき欲望の罪が色濃く出てきます。『戦争の世紀』であった二十世紀に続く二十一世紀は、民族間や宗教間の紛争、いわゆる『テロとの戦い』が続く世紀となりました。また、世界規模の環境破壊が地球温暖化をもたらし、多くの動植物と共に人間の生存も危機に瀕していると言わざるを得ません。我が国では二〇一一年三月十一日の東日本大震災とそれに伴う福島第一原発事故があり、自然と敵対し征服しようとしてきた私たちの生き方そのものが今まさに問われていると言ってよいと思います。そういう時代に、ノアの洪水物語やバベルの塔の物語が何を語りかけて来ているのかを深く聴きとっていきたいと願っています」。

 今日、特に三・一一以降、改めて神が創造された世界、神の創造の業を対象とする「創造論」を問い直す最近の神学の流れにあって、私たちが「ノアとバベル物語」に耳を傾ける意義は大きい。著者の恩師・左近淑先生は『混沌への光』(ヨルダン社)において、「現代に語りかける旧約聖書」という視点を重んじた。「旧約聖書の大部分が民族的規模での崩壊経験との深い関わりの中で生み出された。……根底から揺らぐような危機の中で旧約聖書を残した人々は現実から逃避せず、それを直視し、破れを身に経験しながら、そのなかに現にいまし、働きたもうお方を新しい驚きと感動をもって語り、それにより頼んだのである。……呪われているかに見える世界にありながら、こうした旧約聖書の読み方によって、それ以外にはえられない上なる慰めと希望を与えられ、雄雄しく生き抜く魂を見出してくれることである」。著者も恩師に倣い、「現代に語りかける旧約聖書」という視点を受け継いでいる。

 地上を旅する神の民である教会は、歴史的苦悩を負いつつ歴史を生きる。これらの説教がなされた二〇〇五年四月十日から九月四日の間にも、教会はこの世界に起きた様々な出来事と深く関わりながら生きている。戦後六十年を迎え、総理大臣の靖国神社参拝、日本人の歴史認識の問題、「愛国心」という大義名分の下、自分たちの行為を正当化する罪。ロンドンでの悲惨なテロ事件、復讐の連鎖しか作り出せず、いつも新たに自ら敵を作り出し絶えず自己を正当化しつつ敵を憎み、呪うことしか出来ない罪。現代を生きる人間の罪が、実は「ノアとバベル物語」で語られていることを、会衆に丁寧に説き明かす。

 「ノアの洪水物語」と「バベルの塔物語」には、それぞれそれらを挟むようにして系図が配置されている。読み飛ばしてしまいがちな系図であるが、しかし、聖書には無駄な言葉は一つもない。神は系図に記された一人ひとりの名前にも、私たちへのメッセージを込めておられる。江川卓の『謎とき「罪と罰」』シリーズのように、説教者は情熱を込めて系図に込められた神のメッセージを丁寧に説き明かす。本著は説教だけでなく、巻末に「ノアとバベルの塔物語」の「黙想」を記し、黙想という視点からさらに深く聖書の御言葉を掘り下げている。「説教」と「黙想」とがこだまして、聖書の御言葉が豊かな音色を奏でている。

 著者は「ノアとバベル物語」の説き明かしを通して、会衆をキリスト礼拝へと招く。「ノアとバベル物語」で語られる人間の罪に対する神の徹底的な審きと祝福は、イエス・キリストの新しい契約の出来事を証言している。キリストを告白しつつ、約束の地を目指し、地上を旅する「新しい神の民」の形成。著者の旧約聖書を説き明かす一貫した明晰な姿勢がここにある。

(いのかわ・まさる=日本基督教団山田教会牧師)

(四六判・三〇六頁・定価一八九〇円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年7月号)より