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内容詳細

ヨーロッパ音楽の源流となった教会音楽の歴史をコンパクトに解説。讃美歌、礼拝、暦、教会建築、楽器など、教会音楽をはじめて学ぶ人に必要不可欠な入門書。写真・図版を多数収録。

【目次】

第1章 キリスト教とその音楽の歴史

第2章 キリスト教会の歌

第3章 キリスト教会における儀式

第4章 聖なる空間とオルガン

付 録 教会音楽史略年表

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書評

エキュメニカルな視点で捉えたコンパクトな解説書

佐々木しのぶ、佐々木悠著

キリスト教音楽への招待

聖なる空間に響く音楽

 

新垣壬敏

 著者の御二人は、オルガニストで親子である。佐々木しのぶ女史には、オルガン曲のCDが、数枚リリースされたものがあり、オルガン関係者には、『教会オルガニスト教本』の著者としても知られている。近年御子息と、ジョイントコンサートを行う等、注目を浴びるようになった。その御二人が、この度は、本書を出版。興味深く読んだ。

 キリスト教の音楽は、神聖な典礼が行われる「聖なる空間に響く音楽」である。天井が高く、残響時間の長い美しい聖堂に鳴り響き、聞く者の心を祈りへと誘い、偉大な力を感じさせる音楽である。しかし日本では、教会の聖歌隊だけでなく、一般の合唱団でも、小曲から壮大な大曲に至るまでの難曲が、演奏されているにも拘わらず、「聖なる空間」ではなく、殆どコンサート・ホールで聞くことしか出来ない現状にある。

 この現状を踏まえて本書は、キリスト者である立場から、「はじめに」の中で、「キリスト教から派生した音楽は、『聖書』とどのように関わっているかを問い直し、その源泉を見つめ直したい」と記されているように、キリスト教の音楽に対する理解を求めて、執筆されたと言えよう。手頃な案内書として、一読をお勧めしたい。

 本書は四部構成になっている。第一章では「キリスト教とその音楽の歴史」について触れ、「『聖書』から生まれた音楽がどのように継承され、私たちに伝えられてきたのかを概観します」とあり、第二章では「キリスト教会の歌」について、「『聖書』の時代から現代にまで伝えられてきた教会の歌を歴史的に取り上げます」と記している。

 第三章では、「キリスト教会における儀式の歴史」について、「キリスト教会において継承されてきた儀式(ミサ礼拝と説教礼拝)の秩序、聖務日課、教会暦を取り上げます」とあり、第四章では、「聖なる空間とオルガン」について、「教会音楽が生まれた『聖なる空間』(教会)の歴史を探り、その空間に取り入れられたオルガンの歴史を学びます」と、概要を語っている。更に、古楽譜のファクシミリや、教会建築の資料や、オルガンの構造に関する資料や、豪華なオルガンの写真などの資料が、随所に挿入されていて楽しい。

 ある意味で本書は、先述した『教会オルガニスト教本』の補完、或いは続編と位置付けることが出来よう。書物も時代の子である。新しい情報が導入されるのは当然である。例えば前書で「M・ルター自身が独自の旋律を残したかどうかは明らかではない」(二一頁)とあるが、本書では「彼は自ら多くの賛美歌を作り」(五六頁)と訂正。前書の「礼典」の用語は、サクラメントの訳語としての「聖礼典」(六七頁)以外、本書では、「典礼」となっている。

 「真理を証明するためにこの世に来た」と語ったイエスの言葉を、真摯に受け留め、真理に誠実に向き合って生きる研究姿勢が、エキュメニカルな新共同訳『聖書』の実現を見たに違いない。多言語、多文化の欧州十二ヶ国の共通教科書として共同研究を重ねて執筆された『ヨーロッパの歴史』が出版され、世界的に注目された。

 多教派に分裂しているキリスト教の音楽を語るのは容易ではないが、本書がエキュメニカルな視点で捉えているのは評価出来よう。キリスト教の音楽を語るには、音楽は勿論、歴史的視点の他、聖書学、神学、典礼学の総合的な知見が求められるものである。本書を読みながら頭を過ったのは、「古人の跡を求めず、古人の求めたる所をもとめよ」と言う芭蕉の許六離別の詞であった。

 キリスト教用語の日本における認知度の判断は難しいが、「正典」(一三頁)と「聖典」(六六頁)や「有祭期」、「無祭期」(八七頁)や時代区分の用語やカッコ( )内の数字(五六頁以降(1)~(7))等には脚注が欲しいところ。六九頁のことばの典礼から旧約の朗読(復活節は使徒書)が省略されているのは、典礼改革以前の資料を参照したからなのだろうか。内々の言葉でしか語らない閉鎖社会は、外に広がることはないという文言は、情報発信者の留意事項と言えよう。  

(あらがき・つぐとし=作曲家)

(A5判・一三〇頁・定価一八九〇円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年9月号)より