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内容詳細

●説教者の参考と助けになり、信徒の信仰書にも用いられる説教を古代から現代までの範囲にわたって収集。

●本巻では、宗教改革以後から現代までのおよそ500年の間の代表的な説教を収録する。

●ラッツィンガー(現教皇ベネディクトゥス16世)やヨハネス・パウルス2世(前教皇)、アリスティド(元ハイチ大統領)など、現代社会と密接に関連する説教者も登場。

●収録された説教のほとんどが本邦初訳。

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書評

近代におけるカトリック教会の多面性

石井祥裕

 「シリーズ・世界の説教」第三巻をなす本書は、十六世紀から現代までの二十九人の説教作品を収録している。近代思想の華々しい自己主張のかげで近代カトリックの思想自体あまり知られていないなか、本書は各時代にあって重要な足跡を残した人々に光を当てている。本書によって初めて名前を知る人物も多いだろう。そのような場合のために、各作品冒頭にある簡潔な人物略伝はまず貴重な情報源である。

 それぞれの人について、本シリーズのテーマである「説教」という側面から、つまり神学的著作や論考ではなく、聴衆に向かって語られた、生きた「ことば」が示されている点でユニークな翻訳編纂作品となっている。収録された全二十九人の説教作品は大きく分けて次のような時代背景から選ばれている。

 (一)十六世紀のトリエント公会議時代の五人(特にカルロ・ボロメオ、ロベルト・ベラルミーノは有名)。人文主義による教養全般の刷新および宗教改革の衝撃への対応を契機としたトリエント公会議により、司祭の不可欠の務めとして「説教」が復興されていく時代を代表する。

 (二)十七世紀から十八世紀前半までの宮廷説教隆盛時代の六人――特にボシュエが有名なフランス・ブルボン朝下の宮廷説教のほか、教皇宮殿説教という場があったことも知られる。ガリカニスム(フランス国家教会主義)という教会と国家の緊張関係も注目される一方、ともかくもカトリシズムが一国の公共の中心にあった時代の内的風景をかいまみさせる。

 (三)十九世紀――フランス革命に象徴される近代思潮の奔流を前に、カトリック復興が目指された時代の五人。特に英米圏の説教者に比重が置かれる(ニューマン、ギボンズら)。

 (四)二十世紀――第二バチカン公会議を経て現代に至る十三人。特に、同公会議を開催したヨハネス二三世を筆頭に十九世紀末に生まれ、二度の世界大戦をくぐり抜け、公会議によるカトリック教会の刷新、神学の刷新に寄与したカール・ラーナー、バルタザール、スキレベークスらの神学者、カマラ大司教、ロメロ大司教ら中南米の教会指導者、そして教皇ヨハネス・パウルス二世、ラッツィンガー(教皇ベネディクトゥス一六世)ら公会議後のカトリック教会の指導者の作品が収められている。「説教」作品をテーマにするものであるが、同時に、近代・現代カトリック思想史への窓口となるよう選定された意図もよく感じられる。『キリスト教史』第五巻~十一巻(平凡社ライブラリー)などと重ね合わせて読んでいけば、近代カトリックの置かれた状況とその中を生きた精神の多面的な煌きに触れる思いがするだろう。

 カトリック教会における説教のあり方に関しては、ちょうど半世紀前に開幕した第二バチカン公会議(一九六二~六五年)が新たな時代を切り拓いた(編者序文参照)。同公会議は説教を神の民全体の救済史的使命によって基礎づけ、ミサにおける神のことばの食卓での奉仕としての姿がその根本的な姿であることを明らかにした。このような認識の確立のために、オーストリアのピウス・パルシュ(一八八四~一九五四年)やヨゼフ・アンドレアス・ユングマン(一八八九~一九七五年)らによる典礼的説教の復興も現代カトリック史の重要な局面をなしている。以来、ミサの聖書朗読と結びついた説教が説教の基本型とみなされるようになっているが、同時に福音宣教の展開のために、種々の講演、黙想講話、信仰教育的な教話などさまざまな形式を通じて、神のことばに基づく、生きたことばの奉仕が神の民全員に呼びかけられている。そのような広い意味での「説教」活動を総体として把握し、方向づける実践神学の深化も求められるところである。そのような課題に向けても大いに刺激するところの多い書となっている。感謝する次第である。

(いしい・よしひろ=上智大学神学部非常勤講師、『新カトリック大事典編纂委員)

『本のひろば』(2013年1月号)より