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内容詳細

聖書のことばを聴く

問題が山積する現代で、聖書は何をわたしたちに語りかけているのか。

垂直を目指す地上での日々を送る人びとに、聖書が伝える「生命と希望」のメッセージ。

2010年より続く日本キリスト教文化協会聖書講座の講演集。今、日本が直面している問題を取り上げながら、聖書の福音をわかりやすく解説する。

 

著者紹介

船本弘毅(ふなもと・ひろき)

 1934年生まれ。1959年関西学院大学大学院神学研究科修了。1962-64年米国ニューヨーク、ユニオン神学大学大学院に留学。1973-74年スコット ランド、セントアンドリュース大学博士課程に留学、1982年同大より博士号学位受領。関西学院大学教授、同宗教総主事、東京女子大学学長、 東洋英和女学院院長を歴任。現在、関西学院大学名誉教授。

 著書に『キリスト教と現代』『聖書の世界窶萩喧ヌむ』『聖書の世界窶柏V約を読む』『教育の大きな忘れもの』『イエスの譬話』など。その他 訳書、編著書、監修書多数。

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書評

平明にして細心、滋味溢れる書

川田 殖

 これほど平明にして細心、かつ滋味溢れるキリスト教書を最近読んだことがない。年末年始─ ─本書の教えるクリスマス期間──再読三読してそう思った。その思いは読むほどにますます深まるばかりである。
 発行所の会長宮原守男氏の序文──それ自体すぐれた書評──にあるように、本書は公益財団法人日本キリスト教文化協会の活動としての公開連続講演会の聖書講座をまとめたものであり、ここに収められた十二の講演は、平明にして細心、しかも溢れんばかりの滋味を湛えて、キリスト教入門・聖書入門・信仰入門の三つの役割を見事に果たしている。聴講者の感動もさぞ深かったに違いない。
 ここにいう「平明」とはわかりよくはっきりしているだけではない。そこには同時にバランスのとれた公平さも含まれている。導入の自然さ、話題展開のなだらかさ、具体例の適切さ、まとめの見事さ、全体を貫く語り口の暖かさのゆえに、本書はキリスト教や聖書にまったくなじみのない人をも、その核心へと案内してくれる。しかも歴史的産物としてのそれらが本来意味したことを明らかにするとともに、今を生きるわたしたちにそれらが何を語っているかが明らかになるという、複眼的配慮が一貫していて、よく読めば誰にでも納得される公平さを湛えている。絶妙のバランスというほかはない。
 ここにいう「細心」とは、いわゆる「こまやかさ」で、綿密であるとともに心がこもっていることである。その綿密さは、まず、この連続講演が、生きること・出会い・希望・奉仕・苦難・摂理・死生観・自由と愛・時と永遠・信仰の中心点・十字架の指し示すもの、といった人生の目の付け所のほとんど全体に触れていることに表れている。またこれらの問題も、創世記・イザヤ書・ヨブ記・福音書・使徒言行録・ローマ書・コリント書・ガラテヤ書・ヘブライ書など、聖書全体の勘所を押さえた釈義の光に照らして解明されるところにも表れている。いずれも教育者であるとともに牧師、つまり魂の看とり手(ゼールゾルガー)としての著者の多年にわたる研鑽と思索・実践と配慮の結晶であり、だからこそ強い説得力をもって人の心を打つのである。たとえば本書のタイトルに選ばれた「水平から垂直へ」と題するヘブライ書を通してのメッセージの深さ豊かさはいかばかりか。「垂直を目指す水平の旅は、垂直に支えられた水平の歩み」。いくど読み直しても深い示唆と希望を与えられるこのような言葉が本書の随所にちりばめられている。
 このような味わいの深さ・豊かさをここでは「滋味」と言い表した。俗にいう「おいしくて体に良い」「おもしろくて為になる」のは、理屈ではなくて、味わい摂取する者の実感であるが、それは材料のよさとともに、料理人の実力・心構えによることが多い。聖書が天下一品の精神的栄養源であることはいうまでもないが、その解明に人を得てこそ、その味わいが、今を生きるわたしたちの血となり肉となることもまた疑いない。ことに今の日本は人間としての目の付け所の中心を見失い、あまたの思い煩いに散り果てているかのごとく見える。いまこそ人生の座標軸が正しくすえられるべき時であるが、そのために聖書の真理を平明・細心かつ滋味深く示す本書の意義はきわめて大きい。
 筆者はかねてから著者のことを、いまや一学校・一教会を超えて、あまねく心ある国民に語りかける真理の使徒だと考えている。むかし朝廷から国家の師表たるべき高僧に「国師」という称号が贈られたが、著者はそれを拒むであろう。むしろ「キリスト・イエスのしもべ、福音のために召されて使徒となった」船本弘毅の名を喜ぶであろう。国師にまさる使徒の熱誠あふれる語りかけが、広く心ある日本人に届くよう希って止まない。

(かわだ・しげる=哲学者)

『本のひろば』(2014年4月号)より