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内容詳細

ユダヤ人は何を信じ、いかに生きているのか?

豊かな伝統を誇るユダヤ教の信仰的特質を、ユダヤ人の生涯と生活様式から解説したユニークな入門書。数々の民族的苦難を体験しながらも、神の救済の歴史を語り継ぐ、ユダヤ人の〈いま〉に迫る。

目次

日本語版への序文
凡例

はじめに

一 ユダヤ教の多様性
二 本書のねらい

第一章 神の民への仲間入り

一 出自によるか、改宗によるか
二 割礼
三 契約と一神教
四 歴史、記憶、約束の地
五 バビロン捕囚による神学的危機
六 イスラエルの選民意識

第二章 ユダヤ人の家庭

一 メズーザー
二 衣服・髪型
三 食物規定
四 食卓の祈り
五 安息日
六 過越祭
七 仮庵祭
八 ハヌッカー
九 プリム

第三章 学校と学習

一 学習──宗教的義務と理想
二 教科書
三 学ぶことの価値
四 ヘブライ語──神の言語
五 イェシヴァとダフ・ヨミ
六 本の民
七 知的志向
八 信仰修養文学

第四章 律法遵守の始まり

一 バル・ミツヴァー
二 ユダヤの伝統における律法
三 トーラーの歓喜
四 六一三の掟
五 掟の意味と根拠
六 ユダヤ教の懲戒権と国家
七 ユダヤにおける革新
八 教義(ドグマ)と破門

第五章 シナゴーグ(会堂)

一 シナゴーグの成立と内装
二 シナゴーグでの礼拝
三 暦の諸問題と年中行事

第六章 結婚と家庭

一 結婚の位置づけ
二 他宗教間の結婚
三 ミクヴェー
四 結婚式と結婚誓約書
五 結婚式の流れ
六 子供と妊娠中絶
七 離婚の手続き
八 レヴィレート婚
九 相続法
一〇 伝統と現代
一一 女性の位置と権利

第七章 死・葬儀・来たるべき世

一 人間の儚い命
二 病人の見舞い
三 死
四 葬儀
五 服喪期
六 墓地
七 終末時における復活と審判
八 来たるべき世

参考文献一覧
訳者あとがき
資料引用索引・索引
聖書とラビ文学成立一覧

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書評

ユダヤ人は何を信じ、いかに生きているのか?
 
内田 樹
 
 ユダヤ教についての入門書を私もかつて一度訳したことがある。ロベール・アロンらの『ユダヤ教──過去と未来』(ヨルダン社、一九九八年)というフランス語の本である。私がユダヤ教について研究し始めた三〇年ほど前は日本語で読めるユダヤ教入門書は非常に少なかった。自分自身がずいぶん苦労したので、初学者のための信頼できる概説書・入門書が必要だと思って訳を引き受けたのである。悪戦苦闘して訳出したが学術的業績としてはほとんど評価されなかった(まだ絶版になっていないことだけが救いである)。本書を翻訳されたお二人には、このような報われることの少ない仕事のために誠実な訳業を仕上げてくださったことに対して、ユダヤ学研究の末席を汚す者の一人として心からの謝意を表したいと思う。
 私が上記の入門書を訳したとき、私には一人もユダヤ人の知り合いがいなかった(広尾のシナゴーグにいた米国人ラビを質問のために何度か訪ねたことがあっただけである)。欧米であれ中東であれ、ユダヤ人たちが具体的にどういう宗教生活を送っているのか私は見たことがなかった。「種無しパン」というのがどういう味のものか、「仮庵」というのがどういう形態のものか、シナゴーグでのトーラーの朗誦がどういう音響のものか、知らなかった。何も知らないままに「ユダヤ人の宗教生活」について書かれた本を訳したのである。今から思うとずいぶん無謀なことをしたものだと思う。本書の訳者たちはユダヤの宗教生活について精通した方たちであり、訳文の信頼性と安定度は拙訳に比すべくもない。
 本書の特徴は著者が非ユダヤ人であることにある。序文の「日本の読者へ」にも書かれている通り、著者の視点は「外部からの好意的な観察者の視点であり、中立的な視点でもある」。これは大きなアドバンテージだと思う。
 ある宗教のもつ独特のエートスや律法や儀礼の独自性を「内側」から書くのはむずかしい。仮説的にいったん自分の信仰の外に出て、中立的たらんとするためには例外的な想像力と知的抑制が必要になるからである。それは例えば「野球」とはどういうものかを野球をまったく知らない人に説明しようと思うなら、野球選手に聞くより、人類学者に聞く方がわかりやすいということに通じている(人類学者はたぶん「フェアとファールの境界線はなぜ引かれるか」 「ストライクとボールにはなぜ二つの意味があるか」というあたりから始めるだろう)。ある世界の「内側」にいる人にとってあまりに自明なので説明の要もないと思われることが、「外側」からはひどくわかりにくいことがある。その点で本書はきわめて目配りの行き届いた解説書となっている。
 だが、それは逆から言うと、書いているうちに「インサイダー」であればつい興奮してしまうような話題や、口にするだけで怒りや恐怖がよみがえるような話題にはこの本は論及していないということでもある。もちろん、そのような烈しい感情的反応を引き起こすことは解説書の任ではない。これは座右に置き、術語の正確な語義や、表記や、歴史的文脈を知るためのレフェランスとして読まれるべき本である。
 けれども、現代ユダヤ人の宗教生活と彼らの内面の葛藤を知るためには「ホロコースト」と「イスラエル国」がユダヤ人のものの考え方にもたらした決定的な影響については言及せざるを得ないのではないかという気持ちはする。いや、著者が熟慮の末「そういうことについては書かない」と決めてそうしたことはよくわかる。それゆえ、読者には、ユダヤ人の歴史と生活は「それについて中立的に語ることがきわめて困難な話題」抜きには叙し切れないという重い事実を心にとめておいて欲しいと願うのである。
 
(うちだ・たつる=神戸女学院大学名誉教授)
 
『本のひろば』(2015年9月号)より