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内容詳細

〈底本への忠実さ〉と〈日本語としての読みやすさ〉を
両立させた画期的な翻訳

厳密な教理と深い敬虔が一体化したピューリタンの霊性の結実として、時代・地域を超えて愛されてきた「ウェストミンスター小教理問答」。その最新の翻訳を携帯しやすい新書判で贈る。

「優れた翻訳があるにもかかわらず、なおこの新しい翻訳を世に問う意味はどこにあるのでしょうか。……私は、底本への忠実さとともに、日本語としての読みやすさを重視しました。それゆえたとえば、英文では一続きの文であったとしても、翻訳では文を区切った場合もあります。また、十戒本文には新共同訳を用いました。……私としては精一杯、底本への忠実さを極力犠牲にすることなく、現代の人々にもっとも分かりやすい日本語となるように努めました」(「訳者あとがき」より)。

《訳者紹介》
1962年、浜松市に生まれる。1985年、大阪府立大学経済学部卒業。1985─1993年、大阪府庁勤務。1996年、神戸改革派神学校卒業。1996年から2013年3月まで、日本キリスト改革派園田教会牧師。2000年から2002年まで、スコットランド、フリー・チャーチ・カレッジに留学(Post-graduate Dip.)。2013年4月から、神戸改革派神学校教授(歴史神学)。
著書 『信仰告白と教会』(新教出版社、2012年)、『ウェストミンスター小教理問答講解』(共著、一麦出版社、2012年)、『ウェストミンスター信仰告白と教会形成』(一麦出版社、2013年)ほか多数。 訳書 W. ベヴァリッジ『ウェストミンスター神学者会議の歴史』(一麦出版社、2005年)、『ウェストミンスター信仰告白』(共訳、一麦出版社、2009年)、『改革教会信仰告白集』(共編訳、教文館、2014年)。

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書評

翻訳を重ね、ここまで日本語になった信仰問答!

山口陽一

 「ウェストミンスター小教理問答」(一六四八年)の最初の日本語訳は『耶穌教畧問答全』(一八七六年)だった。これは当時の米国長老教会日本中会による翻訳で、訳者J・C・ヘボンは「自分で申すのは何ですが、立派に翻訳されていると思います」と満足している。その第一問答は以下のとおり。

 人(ひと)の専(もつぱ)ら目的(めあて)とすべきことは何(なに)ぞや

 人(ひと)の専(もつぱ)ら目的(めあて)とすべきことは神のさかえをあらハし又 (また)永遠(かぎりなく)神(かみ)を楽(たのし)むことなり

 これは一八七九年の改訂を経て『ウエストミンステル略問答』(一八九五年)となり、戦後の日本基督改革派教会信仰基準翻訳委員会訳『ウエストミンスター小教理問答書』(一九五八年)となる。この間、橋本亘、宮内俊三、藤井重顕ほかの個人訳も用いられた。その後のものとしては榊原康夫訳(一九七八年)や松谷好明のすぐれた翻訳(二〇〇八年)がある。

 このたびの袴田康裕訳は一六四八年の初版を底本とし、榊原訳より英文に忠実と思われる委員会訳を、松谷好明訳の成果をふまえ、現代人に読みやすい日本語にしたものである。

 石丸新が指摘した通り榊原訳は独自の訳語を用いているが、袴田はこれをより一般的な訳語に戻している。たとえば第7問の答「神の聖定とは、神の御意志の熟慮による永遠の決意(purpose)です」は「永遠の計画」に、第33、34問の答の「神の一方的な(free)恵みによる決定(act)」は「無償の恵みの行為」というように。

 松谷訳は十戒の本文に文語訳聖書を用いて十七世紀の英語の格調を表したが、袴田訳は新共同訳を用いる。また、松谷が原文に忠実に、目と耳で理解する工夫をしたところを、委員会訳を継承した語順とし、さらに改良を加えている。たとえば第31問「有効召命とは何ですか」の答は以下のとおり。

 (松谷訳)有効召命とは、それによって神の霊が、[第一に]わたしたちに自分の罪 と悲惨を悟らせ、[第二に]わたしたちの思いをキリストを知る知識で照らし、[第 三に]わたしたちの意思を新たにすることによって、福音において無償でわたしたち に提供されているイエス・キリストを受け入れるように、わたしたちを説得し、ま  た、実際受け入れることができるようにしてくださる、そのような御業です。

 (袴田訳)有効召命とは、神の御霊のわざであって、それによって御霊は、わたした ちに自分の罪と悲惨を自覚させ、わたしたちの知性をキリストを知る知識で照らし、 わたしたちの意志を新たにしてくださいます。こうして御霊は、福音においてわたし たちに無償で提供されているイエス・キリストを、受け入れるように説得し、それが できるようにしてくださいます。

 第81問、第十戒の禁止事項の答で、私たち自身の「身分」あるいは「状態」と訳されてきたestateを、松谷と共に「生活状態」と訳すのは現代人に理解しやすい。ついでに「過度な意向(motions)や愛着」も、松谷の「法外な欲求や愛着」が良いのではないかと思ったりもした。比較の楽しさの一例である。

 この書評を依頼され、妻と子の協力を得て晩の祈りに委員会訳、松谷訳、原文、そして袴田訳を読み比べた。袴田訳のわかりやすさをしばしば実感し、よりわかり難いと思うことはなかった。これはわたしたちにとって恵みの時であった。

 最初の日本語訳から一三九年、第一問答で「神の栄光をあらわし」、「神に栄光を帰し」と訳されてきたto glorify Godは、すべての箇所で「神の栄光をたたえ」とされ、意味をより際立たせている。この新訳が、日本の教会の福音理解をより明瞭にすることを願ってやまない。

 人間の主要な目的は何ですか。

 人間の主要な目的は、神の栄光をたたえ、永遠に神を喜ぶことです。

(やまぐち・よういち=東京基督教大学大学院教授)

『本のひろば』(2015年10月号)より