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内容詳細

1939年の宗教団体法公布に始まる国家の宗教統制は、日本のキリスト教全体を大きく揺さぶった。合同教会である日本基督教団が成立する一方、諸教派の分裂や教会・個人への弾圧も生じた。こうした混迷を極める戦時体制下の諸動向をめぐり、日本基督教団・カトリック・正教会・聖公会・ホーリネスが初めて一堂に会して論じる。

 

巻頭言(大西晴樹)

序 章 宗教団体法のもとにあった戦時下のキリスト教(原 誠)

第一章 日本基督教団(戒能信生)

第二章 カトリック教会[日本天主公教教団](三好千春)

第三章 正教会[日本ハリストス正教会教団](近藤喜重郎)

第四章 聖公会(大江 満)

第五章 ホーリネス(上中 栄)

あとがき(岡部一興)

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書評

よみがえった反動的パワーに対峙するための基礎固めを

石浜みかる

 「宗教団体法」は、戦時下の一九三九年四月に成立し、日本の全宗教団体を横並びに串刺しにした戦時統制法です。宗教関係者にとって、法律は論じることの少ない分野ですが、憲法九条が揺らぐ今この時に、〈あの〉宗教団体法に焦点を絞った書籍が出たことは、まことに時宜を得ていると思います。本書のなかで研究者の方たちは、キリスト教界の代表的な五つの団体それぞれに、当時何が起きていたのかを(長らく語られなかった内部の状況もふくめて)、渾身の力を込めて語っておられます。

 敗戦後、宗教団体法は廃止されました。しかし立法や法の改定はつねに社会動向と密接につながっています。戦後七〇年を経て、集団的自衛権の行使が可能になったいま、「信教の自由」と「政教分離」をふまえた現行の「宗教法人法」も、国策協力へ向かわせるための改変の下準備が粛々と進行しているやもしれません。

 三九年に成立した宗教団体法の草案が、文部省宗教局の高級官僚によって練られたのは、その四年前の一九三五年です。超国粋主義議員たちの突き上げにより、国会が「天皇陛下は憲法のもとで統治されるのではない。日本は現人神天皇陛下が、憲法を超越して治められる神国なり。皇国なり」と、古代のような「憲法の解釈変更」を決議したからです(三月二四日衆議院、天皇機関説排撃による国体明徴決議案可決)。

 そして翌三六年の二・二六事件いらい、軍部が政治を掻き乱していき、日中戦争が泥沼化すると、国民のあいだに不安と厭戦気分がひろがり、国内秩序が崩れていきました。復古的日本精神を鼓舞する官製の「国民精神総動員運動」が始められますが、戦死者の遺骨はつぎつぎにはるか遠い中国大陸から戻りつづけます。お葬式を執り行う宗教界の絶対的服従が必須でした。超国粋主義者であった平沼騏一郎首相は、三九年二月、ついに宗教団体法案を貴族院特別委員会に提出し、「どんな宗教も、我が国体観念に融合しなければなりません。国家としては保護もします。横道に走るのを防止するために監督もいたします」と恫喝します。宗教団体法は可決されました。

   (第一条)本法において宗教団体とは神道教派、仏教宗派及び基督教其の他の宗  教の教団(以下単に教派、宗派、教団と称す)並びに寺院及び教会を謂(い)う

 アメ(保護・懐柔)は「認可を受ければ所得税は取らない」という条項であり、ムチ(監督・強権)には、合法でない宗教行為には罰をあたえる、トップ解任もあるとの脅しの条項もありました。黙って「認可」を受ける指導者たちの無抵抗の従順さを見て取るやいなや、文部省宗教局官僚は一気に強制的大統合をすすめたのでした。こうして宗教界諸団体は、国体に融合し、「和」を保てという同調圧力に屈してしまったのでした。それは滅私報国・戦争協力への道でした。

 「神道教派」(教派神道)とはおもに江戸末期から明治にかけて生まれた創唱宗教で、どれも神道的な信仰集団でした。長らく一三団体が公認されてきており、そのまま一三派として認可されます(「神社神道」は信仰集団ではなく、国家の祭祀であり、別格で内務省神社局の管轄でした)。

 仏教界は一三宗五六派ありましたが、一三宗二八派に統合されます。

 キリスト教界は苦しい立場でした。カトリック教会も、正教会も、聖公会も、プロテスタント諸教派も、一国家内の法律を超えた国際的つながりがある構造をしています。本書のなかでムチに振り回されながら関係を絶っていく詳細が語られます。一番すさまじいムチを受けたのは、一部が日本基督教団にも統合された、ホーリネス関係者でした。法律が一つ成立すれば、関連法が「改正」されます(安保関連諸法の改正のように)。内務省の特別高等警察は、「改正」治安維持法を適用して一三〇名以上の牧師を粛々と検挙しました。七一名を起訴。実刑一四名、死者七名――。

 キリスト者たちは国家と信仰のはざまでどう生きるのか。現代の宗教者は法律に敏感でなければなりません。

(いしはま・みかる=作家)

『本のひろば』(2016年1月号)より