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内容詳細

信仰、愛、性、結婚、仕事、経済、政治、戦争、正義、善悪、欲望……、私たちが抱えるリアルな倫理的問題を信仰者としてどのように考えればよいのか?
キリスト者学生会(KGK)の総主事として全国を飛び回る著者が、現代の若者の悩みや痛みに寄り添いながら語った十戒の講解。
私たちの弱さや痛みをも包み込む〈希望の倫理学〉!

「十戒に示される神を愛して生きるという倫理的決断こそ、家族を愛して生きる、妻を愛して生きる、隣人を愛して生きる、貧しい人、虐げられる人を愛して生きるという、愛に生きるキリスト者の倫理的生活の出発点となるのです。」(本文より)

【目次】
まえがき
序 論 十戒とは何か──約束に生きる民として
第一戒 愛を生きる十戒
第二戒 考えることを奪う偶像化する社会の中で
第三戒 礼拝的人生が指し示す自由への指針
第四戒 働くことと休むことの意味
第五戒 人は誰かと生きないといけないのか
第六戒 人が生かされる世界のために
第七戒 キリスト者の喜びとなる「良き性」とは
第八戒 裕福になることと搾取に生きるということ
第九戒 真実を語り合う世界の形成を目指して
第十戒 私たちの欲望をどう取り扱うのか
引用文献
あとがき

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書評

生きる喜びを伝える希望の倫理学

川﨑公平

 おもしろい。読み出すと止まらない。本書をお読みになって、もしも「そうは思えない」と感じられたならば、まじめに最初の頁から順序よく読むのではなく、気になる章から読み始めてもよいかもしれない(著者自身もそのことを期待しているようだ)。きっと多くの方が、私と同じように、つい読みふけってしまうという経験をなさるに違いない。

 本書は、キリスト者学生会(KGK)総主事である著者が、常日頃若い世代のこころに向かい合いながら、しかしおそらく、すべての世代に読んでほしいと願って書かれた書物である。十戒の第一戒から第十戒まで一章ずつ、それに先立って序論があり、全一一章から成る。十戒に関する基本的な事柄が、かなり丁寧におさえられている。私がぜひお勧めしたいのは、ただひとりで読むだけでなく、誰かと対話しながら本書を読んでみることである。たとえば、教会の集まりで読書会をしてみたらどうだろうか。少ない頁数の中に非常に豊かな内容が盛られている。どれほど豊かな語り合いが生まれるだろうかと思う。

 もともとキリスト者学生会の主事会主催セミナーで、十回の連続講演をしたものが本書の原型となっている。その後、十名を超える人たちが集まって講演原稿の検討会をしたらしい。その意味では、本書は著者ひとりの著作ではなく、多くの人との対話から生まれたものである。それだけに、言葉がよく磨き上げられている。読めば分かる。教会に生きる者の〈ほんね〉、この国に生きる者の〈ほんね〉を(いい意味で)よく聞き取りながら、世界と教会の現実と深く対話しつつ、しかも神学的に考え抜かれた言葉として整えられている。

 「自由への指針」。この書名に本書の姿勢がよく現れている。「十戒をはじめとする律法は、人間を縛り付けるために与えられたものではありません。むしろ、私たちを自由へと解き放つために与えられた、良き知らせなのです」(五頁)。神は既に、私たちを自由へと解き放ってくださった。そこに生まれてくるはずの生活の姿を、本書はたいへん具体的に、また率直に説く。「十戒が私たちに求めてくるものは、『福音の生活化』『信仰の生活化』です」(二二頁)。私たちの信仰が心の問題、内面の問題だけのことであってはならない、と言うのである。「そんなことは、言われなくても分かってる」という感想もあるかもしれない。けれども本書を読むと、その私たちの〈生活〉というものが、実に大きな広がりを持っていることに気づかされる。第二戒「偶像を造ってはならない」の説き明かしにおいては、偶像を生み出す私たちのこころ、ひいては日本の国家権力に対する戦いの姿勢が明確である。第四戒「安息日を聖とせよ」の章でも、やはり神の与えてくださる安息日の祝福を信じ得ないこの国の〈働き過ぎの罪〉を撃つ言葉が鋭く語られる。また第九戒「隣人に対して偽証してはならない」では、インターネットの発達によって情報のやり取りが簡単になったために、ますます偽証の罪は深刻な姿を見せていると説く。

 「十戒本文の『〜してはならない』とは、同時に『〜しなくとも生きることができる』自由なる生き方を語ります。そしてそれ以上に、『〜をしないことで生み出される神の国の文化』を形成する者へと私たちを導こうとしてくれるのです」(三一─三二頁)。私たちは、今はもう、他者を殺さなくても生きていける。人のものを盗まなくても生きていける。誰かを貶めるために偽証しなくても生きていける。神に愛されているからである。まさに「自由への指針」である。けれども本書は、そこからもう一歩踏み込む。〈神の国の文化形成〉である。「殺さなくても生きていける」と信じ、そのように生きるキリスト者の存在が、〈殺さない社会〉を形成していく力を持つ。すべての章においてこの姿勢は明確である。

 この日本に神のご支配を打ち立て、真実の自由をもたらすこと。この願いを込めて本書を著した著者が、しかも特に若い人たちのために献身しておられるのだということを思うとき、こころ奮い立つものがある。すべての人の魂の再生のために、この国の霊的再生のために、本書をこころからお勧めしたい。

(かわさき・こうへい=日本基督教団鎌倉雪ノ下教会牧師)

『本のひろば』(2016年12月号)より