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内容詳細

「絶対に人のまねはしない」と心に誓い、一流作家や新人画家を大胆に起用して、月刊絵本「こどものとも」を創刊し、多くの名作絵本を世に送り出した名編集者・松居直。

松居氏が編集に携わった「こどものとも」1~149号各号の制作秘話を、何年にもわたり聞き取りを続けた著者が、書籍化されていないエピソードも交えて松居氏の絵本論を紹介する。

巻末には、聞き取りの様子が伝わるインタビュー(対談)の再録や、現役編集者を交えた鼎談も収録。

親子3代に愛される多くの名作絵本は、どのようにして生まれたのか?

戦後日本の新しい絵本文化の道を拓いたその絵本づくりの奥義を、児童文学研究者が多角的に解き明かす!

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●目次から●

第1部 「こどものとも」の編集と松居直

月刊絵本「こどものとも」が誕生するまで/「こどものとも」がめざしたもの

第2部 松居直と名作絵本作り

『セロ弾きのゴーシュ』 『とらっく とらっく とらっく』 『ちいさなねこ』 『ぞうくんのさんぽ』

第3部 松居直とともに絵本を作った人々

瀬田貞二、堀内誠一、佐藤忠良、赤羽末吉

第4部 ロングセラー絵本と新しい絵本――インタビュー紙上再録

絵本をみる眼――ロングセラー絵本誕生の秘密(松居直・藤本朝巳)

時代に合う作品作りの試み――『万里の長城』をめぐって(唐亜明・松居直・藤本朝巳)

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●著者紹介●

藤本朝巳 (ふじもと・ともみ)

1953年熊本県生まれ。青山学院大学英米文学科卒業。白百合女子大学児童文学科博士課程修了。フェリス女学院大学文学部英米文学科教授。絵本学会理事、JBBY(日本国際児童図書評議会)理事、日本イギリス児童文学会事務長などを歴任。

著書 『絵本のしくみを考える』(日本エディタースクール出版部、2007)、『ぞうくんはどっちを向いている?』(フェリス女学院大学、2001)、『子どもと絵本――絵本のしくみと楽しみ方』(人文書院、2015)など多数。

訳書 T.フォンターネ文、N.ホグロギアン絵『リベックじいさんのなしの木』(岩波書店、2006)、C.パターソン文、P.ドルトン絵『たいようもつきも――フランチェスコのうた』(日本キリスト教団出版局、2013)など多数。

 

 

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書評

絵本の力と作り手の思いを伝える

菅田栄子

 四十数年前、松山の講演会で福音館書店の松居直先生が読んでくださった『はなをくんくん』(福音館書店)。動物たちが雪降る中をかけていきます。一緒になってかけていくわたし、ページをめくり雪のなかに黄色のお花が咲いているのをみつけたときの歓び。その時の感覚を先生の表情や声とともに今でも思い出します。また、松居先生からの「あなたは、どんな言葉を食べさせていますか」との問いかけは、今も私の心の中に生きて働き続けています。

 『松居直と絵本づくり』は平和を願い祈りとともに歩んでおられる松居先生の出会った人々と、絵本にこめた思いについて、児童文学研究者藤本朝巳氏がインタビューを通して、ていねいに聴き取られ、まとめられた一冊です。

 松居先生は同志社大学で牧師の心を込めた聖書の朗読を聞かれたとき、言葉は聞くことが大事と気づかれ、教会に通われるようになり、「聞く体験」を重ねていかれます。やがて、一九五六年四月松居先生は月刊絵本「こどものとも」第1号を創刊され、一九六八年八月149号まで編集者として一冊一冊の絵本を丁寧に創られ私たちに届けてくださいました。絵本づくりを通して出会われた作家・画家の方々との興味深いエピソードから、静かな中にも子どもに伝えたい熱い思いが伝わってきます。

 また、加古里子氏と中国の画家常嘉煌(ジョウカコウ)氏の協力で完成した新しい絵本『万里の長城』について松居先生は「国と国が互いの正しい歴史、文化を尊重して、......これからみんなが平和に暮らすようにするために、どういう風に交流するか、そこが大切なところです」(二一五頁)と語られています。この言葉を受けとめ、これからも子どもたちや学生、地域の子育て支援の方々、保育者仲間とともに豊かな言葉の体験を模索しつつ絵本を読んでいきたいと思います。

 本書は、松居先生のお仕事を通して、今、子どもたちに何を伝えていくことが大切なのかを考えていくにふさわしい本ではないでしょうか。現在、子どもたちの周りには、電子情報機器が多くあります。知識の獲得には便利ですが、スマートフォンを赤ちゃんに長時間見せていたり、お母さんがスマホに夢中で赤ちゃんが泣いて訴えていることに応えていかなかったりすると、赤ちゃんは泣いたり笑ったりしなくなる報告もあります。人との触れ合いが少なくなることで、相手の感情をわかろうとしたり、自分の思いを伝えようとしたりする気持ちが育っていきにくいということを聞きます。だからこそ、子どもの時には直接体験や絵本を通して感情を豊かに育み、他の人を思いやる心を育てていきたいと願います。

 松山では、高齢の方々も子育て支援の働きをしたいと希望される方が多くなってきています。講習会に絵本を持って行き読むと、研修を受けておられる方々から、「なつかしい」「子どもに読んでいた時を思い出す」「孫に買って送りたい」との声が聞かれます。松居先生が編集者として作られた絵本から、時を超え、二度三度と読者は新しい感動を覚えます。

 人気の絵本は『ぐりとぐら』(「こどものとも」号)、『おおきなかぶ』(「こどものとも」号)、そして『しんせつなともだち』(「こどものとも」109号)。どれもみんなで分かち合い、自分のことを思ってくれる人がいることを感じさせられます。読み終わると、心が温かくなります。現代だからこそ、子どもたちに教訓として伝えるのではなく、読む人の声を聞き、触れあって共にいる歓びを味わっていくことが大切だと思います。そのためにも、まず大人が絵本を楽しく読むことが大切と思います。本書はそのことにあらためて気づかされる一冊です。

(すげた・えいこ=松山東雲短期大学特任教授)

「本のひろば」(2018年2月号)より