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内容詳細

ものがたり

舞台は第2次世界大戦前のロンドン。医師のすすめで健康回復のためにフィギュアスケートを始めることになったハリエットに、スケートの手ほどきをしてくれたのは、スター選手の忘れ形見ララ・ムーアでした。ララは、彼女を一流の選手にすべく全力を注ぐ叔母のもと、学校にも通わず3歳からスケート中心の毎日を過ごしていたのです。

ララに感化され、たった1年半で見違えるほど上達するハリエット。地元のアイスショーで華やかなデビューを飾りながらも、壁にぶつかり悩むララ。ハリエットの貸靴代を稼ぐために働く兄アレク、兄を助けて野菜作りを手伝う弟のトビーとエドワード。それぞれの夢に向かって歩き始める子どもたちを、周囲の大人たちが温かく見守り、応援します。

夢をかなえるための誓いの言葉は――ガズル、ガズル、ガズル、グワッ、グワッ、グワッ!

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自分の夢を見つけることの素晴らしさ、一生懸命打ち込むことの大切さを伝えるハートフル・ストーリー。人物描写の温かさに加え、フィギュアスケートという繊細で美しいスポーツの難しさ、楽しさもよく描かれています。名作『バレエ・シューズ』で人気を博したストレトフィールドの観察眼が光る珠玉の1冊!

原書タイトルは “Skating Shoes”(1951/英国版“White Boots”)。日本では、榎林哲訳『白いスケートぐつ』として1967年に講談社マスコット文庫の1冊として翻訳刊行されました。本書は翻訳のスペシャリスト中村妙子さんによる新訳です。1951年アメリカ版のリチャード・フロースの挿絵とともに、ちょぴりレトロなスケートの世界をお楽しみ下さい。

◆ストレトフィールドのシリーズ既刊◆『ふたりのエアリエル』(中村妙子訳、2014)も好評発売中!

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【著訳者紹介】

*著者* ノエル・ストレトフィールド (Noel Streatfeild,1897-1986) イングランド・サセックス州出身。英国王立アカデミー演劇学校卒業後、女優を経て著作に専念、大人向けの小説家から、児童小説家となる。代表作『バレエ・シューズ』をはじめ、『サーカスきたる』、『家族っていいな』、『映画に出た女の子』、『大きくなったら』など、多くが邦訳されている(すぐ書房版はすべて中村妙子訳)。

*訳者* 中村 妙子(なかむら・たえこ)1923年、東京に生まれる。1954年、東京大学文学部西洋史学科卒業。翻訳家。著書『旧約聖書ものがたり』(日本キリスト教団出版局)、共著 『三本の苗木――キリスト者の家に生まれて』(みすず書房)のほか、児童文学、C.S.ルイスの著作と評伝、A.クリスティー、R.ピルチャーなどの小説、キリスト教関連書など約250冊の訳書がある。

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書評

子どもの成長に必要なものは何か

徐奈美

 認められることはとてもうれしい。けれども、その力がさらに育ってきたとき、まわりからの期待やプレッシャーが負担となってしまったり、自分の自信ばかりが高まって、伸び悩む実力に目をむけられなくなったりすることがある。特にそれが、子どもの場合、まわりの大人はどのようにして、その子の力になることができるだろうか。

 この本の主人公、ララとハリエットは九歳の女の子。二人が育った環境は全く異なるものだった。ララは、有名なスケート選手が父親だが、早くに両親を事故で失い、父親の妹の家で育てられる。この叔母は、ララを有名なスケート選手に育てることが自分の義務であるかのように考えている。ララのスケジュールは、午前中は、家庭教師に勉強を見てもらい、午後にはコーチと一緒にスケートのレッスン。さらに、ダンスやフェンシングのレッスンが加わる日もある。スケートに集中するために、学校にも通えない毎日だ。金銭的には余裕があるが、友だちと遊ぶ時間も、自由な時間もなく、まわりにいるのは大人ばかり。

 そんなある日、ララが通うスケートリンクに、同じ年頃のハリエットがやってきた。ハリエットは、風邪をこじらせて体力がなくなってしまい、かかりつけのお医者さんに、体力回復を目的にスケートを薦められた。けれども、家庭は裕福ではなく、スケート場に通うお金さえままならない。そこで、お医者さんが知り合いを通じて、スケート場の入場料を無料にしてくれ、スケート靴の借り賃は兄さんがアルバイトで稼いでくれることになった。ハリエットは、四人兄妹の三番目。幸せな家庭の様子は、物語の端々からうかがえる。家族の会話、母親の思い、兄弟のふるまいは、読んでいるだけで心温まる。

 ララとハリエットの出会いは、ハリエットがはじめてスケート場に行った日のこと。手すりにしがみついているのがやっとのハリエットをララが手ほどきをすることになった。二人は意気投合した。この日をきっかけに、ララのスケートレッスンだけでなく、家庭教師との勉強や、ダンスなどのレッスンにもハリエットが加わるようになった。友だちを得たララは、練習も励み、スケートも上達した。しかし、その後の氷の祭典への出場、そして成功はララの虚栄心ばかりを助長させてしまった。

 一方、スケートへの思いが日ごとに増すハリエットは、練習への取組みもよく、その上達ぶりは目を見張るほどだった。

 上手にスケートを滑ることが自分の存在価値と思っているララにとって、スケートで認められないことは、自分自信の存在価値もゼロになるのと同じだった。そんな不安な思いが、大切な友だちを傷つける行動をとらせてしまう。しかし、ここでの大人の計らいがすばらしかった。二人の良いところをのばしたいと考えて、彼女らの気持ちを尊重したものだった。そして、それを乗り越えた二人は大きく成長する。

 二人の心の動きをこまやかに描いた本作品は、読み手をすぐに物語の中へと引き込んでいく。

 本書は、一九五一年に出版され、日本には一九六七年に紹介された作品の新訳。子どもの心の成長は時代によって大きく変わるものではないと教えてくれる。友だち、理解してくれる大人の存在が子どもの成長に欠かせない。

 作者のノエル・ストレトフィールドは、イングランド出身。一八九七年に村の教会の牧師をしている家庭に生まれた。一九三八年に優れた児童書に贈られるカーネギー賞を『サーカスきたる』で受賞している。

 この物語には、ハリエットの兄妹四人が重大な誓いごとをたてるときに、唱えるおまじないのことばがある。その言葉をララも一緒に唱える場面があるが、仲間だけにわかる言葉を持っている子どもは、とても豊かな世界を持っていると感じた。その言葉の仲間に入れてもらったときのララは、どんなに嬉しかったことだろう。読者も、読み終える時には、一緒にこのおまじないの言葉を唱えたくなるに違いない。

(じょ・なみ=関東学院小学校司書教諭)

『本のひろば』(2018年4月号)より