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内容詳細

イエスの真の言葉に迫る!

マタイとルカが用いたイエスの言葉資料“Q”とは何か? 幻のギリシア語本文を復元して日本語との対訳を提示し、注解と修辞学的分析を加えた本邦初の試み。マルコ福音書成立以前の「失われた福音書」を探究することで、イエスが本来語った真の言葉とキリスト教思想の原点に迫る金字塔的研究!

〈目次より〉

第1部 Q文書の訳文とテキスト
 1. 洗礼者ヨハネとイエスの説教(Q3:2-7:35)
 2. 弟子派遣の説教と祈り(Q9:57-11:13)
 3. この時代に対抗して(Q11:14-52)
4. 真の共同体について(Q12:2-13:35)
 5. 弟子の生活(Q14:11-22:30)

第2部 Q文書の注解
1. 洗礼者ヨハネとイエスの説教(Q3:2-7:35)
 2. 弟子派遣の説教と祈り(Q9:57-11:13)
 3. この時代に対抗して(Q11:14-52)
 4. 真の共同体について(Q12:2-13:35)
 5. 弟子の生活(Q14:11-22:30)

第3部 Q文書の注解
 1. Q文書の研究史
 2. 「洗礼者ヨハネに関する説教」の修辞学的分析
 3. 「宣教開始の説教」の修辞学的分析
 4. 「弟子派遣の説教」の修辞学的分析
 5. 「思い煩いに関する説教」の修辞学的分析
 6. 「終末に関する説教」の修辞学的分析

補 遺
他文書との関連箇所一覧
Q文書コンコーダンス
修辞学用語集
省略記号・略語表
Q文献一覧

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書評

今後の福音書研究に必須の重要文献!

嶺重淑

 この度、山田耕太氏によるQ文書を主題とする画期的な研究書が刊行された。もっとも一般読者のなかには、「Q文書」と聞いても、何のことかよくわからないという方も少なくないかもしれない。Q文書(Q資料)とは、マタイ福音書とルカ福音書の双方の著者が共有していたと考えられるイエスの語録資料のことで、「資料」を意味するドイツ語Quelleの頭文字をとってそのように名付けられた。現物が確認されているわけではなく、あくまでも想定上の文書ではあるが、この資料の存在を前提とすることなしに共観福音書(新約聖書冒頭のマタイ、マルコ、ルカ福音書)の成立の経緯については合理的に説明できないという意味でも、今日ではほとんどの新約学者がその存在を認めている。もちろん、新約聖書に含まれる四福音書とは別に、このような想定上の文書を持ち出すことに違和感を覚える方や、そのような「得体の知れない文書」からイエスの真の言葉を読み取ろうとするやり方に抵抗を感じる方もおられるかもしれない。しかし、今日の福音書研究においては、この文書はもはや無視することができない存在になっているのである。

 さて、そのように重要な文書であるにもかかわらず、わが国にはQ文書そのものを扱った文献はほとんど見当たらず、僅かに刊行されている邦語文献も海外の研究者の著作の翻訳本ばかりで、一般読者には読みづらく、またその内容も包括的なものではなかった。その意味でも、本書はQ文書に関する日本人研究者の手になる包括的な研究書という点で画期的なものであり、日本における今後の福音書研究に必須の文献になることであろう。一読者として今回の刊行を心から歓迎したい。

 著者の山田耕太氏は、新約学者として多くの優れた研究業績を上げられているが、特に新約聖書の修辞学的批評に取り組んでこられた。すでに『新約聖書と修辞学』(キリスト教図書出版社、二〇〇四年)や『フィロンと新約聖書の修辞学』(新教出版社、二〇一二年)等の研究書が公刊されているが、本書においてもその研究成果が遺憾なく発揮されている。

 本書は、「第一部Q文書の訳文とテキスト」、「第二部Q文書の注解」、「第三部Q文書の修辞学的研究」というように三つの部分から構成されている。第一部では、復元されたQ文書のギリシア語オリジナル・テキストの決定版である「Q批評版」(theCriticalEditionofQ)をもとに、それを多少修正しつつ計五四のテキストの翻訳が試みられている。それぞれのテキストの日本語訳とギリシア語原文が、各節の文節ごとに対訳の形で見開き二ページにまたがって記載されており、視覚的にも親しみやすいものになっている。

 第二部の注解部分では、その計五四のテキストに関して、まずそれぞれの「訳文」及び各箇所における聖書及び聖書外文献の「関連箇所」が示され、続いて各テキストの「伝承史(様式史・編集史)的研究」及び「修辞学的分析」について述べられ、最後に個々の節に対する注解が施されているが、各項目とも簡潔に記され、読みやすくまとめられている。そして最後の第三部では、最初にQ文書の研究史について概観したのち、Q文書に含まれる六つの説教に焦点を当て、各テキストの修辞学的分析が試みられている。

 以上に加えて、本書末尾の補遺の部分には、文献表の他、「他文書との関連箇所一覧」、「Q文書コンコーダンス」、「修辞学用語集」等の資料が含まれているが、これらはすべて資料として有用なものばかりである。全体で四五〇ページ余りの大著になっているが、通常の聖書注解書の場合と同様、必ずしも最初から最後まで通読する必要はなく、むしろ個々のテキスト研究の際に大いに活用できるであろう。

 著者は現在、敬和学園大学長として重責を担っておられるが、非常に多忙な環境の中でこのような大部の研究書を書き上げられたことに対して心から敬意を表したい。

(みねしげ・きよし=関西学院大学教授)

「本のひろば」(2018年7月号)より