税込価格:6600円
購入サイトへ 問い合わせる
※在庫状況についてのご注意。

内容詳細

近代日本において、キリスト教に基づく教育理論の構築と実践を行い、他に先がけて「男女同権」と「子どもの権利」を提唱した田村直臣。

その教育論の形成と変遷をたどり、今日的な意義を問う。

豊富な史料と貴重な写真を交え、稀代の教育家の生涯と思想に迫る、初の包括的研究!

 

〔目次より〕

序 論

第1章 築地バンドにおける「自由民権」との出会い

第2章 田村の「男女同権」論

第3章 万民の権利から「子供の権利」へ

第4章 田村の日曜学校教育論

第5章 田村の宗教教育・キリスト教養育論

結 論

参考文献・年表・索引

 

〔著者紹介〕

小見のぞみ(こみ・のぞみ)

1962年、東京都に生まれる。聖和大学教育学部キリスト教教育学科、Presbyterian School of Christian Education(米国長老派キリスト教教育大学院)卒業。神学博士。現在、聖和短期大学教授(宗教主事)。

編著書 『教会教育の歩み――日曜学校から始まるキリスト教教育史』(教文館、2007)、『子どもと教会』(キリスト新聞社、2011)、『Thy Will Be Done――聖和の128年』(関西学院出版会2015)。

訳書 P.J.パーマー『教育のスピリチュアリティ』(日本キリスト教団出版局、2008)。

在庫表示は概要となります。詳しくは「問い合わせる」ボタンから直接出版部にお問い合わせください。

書評

子どもの人権の保障のあり方を問う

今井誠二

 著者の言葉を用いるならば、本書は「近代日本キリスト教史において......キリスト教による教育理論の構築と教育実践のパイオニアで、キリスト教による『子供本位』と『子供の権利』の提唱者でもある」(一二頁)、「田村直臣とその教育思想を軸に日本の近代教育とキリスト教を見る」(二一頁)研究書である。二〇年以上にわたる田村研究の集大成として提出された博士論文の書籍化であり、二五頁にもなる関連年表や網羅された参考文献表も含めて四百頁を超える大著である。

 一見、評者のような教育学の門外漢には近寄りがたい印象を与えるが、序文で田村の教育思想に接近するための方法論の検討や研究対象とされる素材について説明がなされ、各章の最後にまとめとして分かりやすい要約がなされる。「日本の花嫁」事件(男女同権の視点から、家父長制、結婚といった日本の習俗を海外に紹介したことが各方面から批判されて国辱と烙印を押され、牧師資格まで剝奪されることになった事件)や日曜学校運動など、思想や人物像に触れて田村に興味を持った人間であれば、自然に引き込まれていく構成になっている。様々な困難を乗り越えて理想をめざして道を切り開こうとする行動的な田村の人物像は、先人に学ぼうとする実践家にとっても大変興味深いはずである。

 著者は、田村研究が進んでいない状況を概観し、資料が乏しい中で成し遂げられた先行研究を建設的に評価しつつも、それぞれ方法論的に問題があることを批判的に吟味した上で、研究の視座を前もって明らかにしようと努めている。方法論に関しては、とりわけ武田清子とT・ヘイスティングズの研究を肯定的に評価しているが、それぞれ著者の視点とは違うことを前置きする。「......武田は、田村の『日本の花嫁』事件研究にあたって、事件前後の田村の生涯を踏まえ、田村がいつも自身の思想と生活を一致させて生きる人物であることから、事件における言動の意味を割り出している......。このような研究の手法と、武田がこの研究において映し出した田村直臣とその思想には、田村研究の方向性が示されているが、本研究とは関心が異なり、研究としての位置づけにも大きな違いがある。......近代的人間形成とキリスト教との対峙に関する研究の中で田村をとりあげる武田と、田村直臣とその教育思想を軸に日本の近代教育とキリスト教を見る本研究との当然の差異といえる」(二一頁)。「ヘイスティングズは、ここで、宗教教育の有機的、発達的、進化論的枠組みが、日本の回心主義者たちに受けいれられない状況の中で、田村は、宗教生活の連続性を説き、『日本の花嫁』事件時には否定されたキリスト教信仰の日常生活への連動性を、宗教教育によって実現しようとしたと、非常に興味深い分析をおこなって」(二八頁)......「田村を一つのモデルとして、北米プロテスタント・ミッションの日本宣教を実践神学の立場で論じ......田村の教育的主張を取り扱いながら、教育論ではなく、宣教論の範疇にある」(三〇頁)。

 著者は丁寧に文献資料を辿り、生い立ちやキリスト教に入信するに至った築地バンドの時代から、男女同権の思想を涵養した留学生時代、「日本の花嫁」事件の背景と顛末、その後の精力的な日曜学校運動の推進と方向転換を通して田村の生涯の最期にまで至り、教義学や聖書学の最先端の知見を先取りした上で実践的視点からそれらを批判し、「子ども中心のキリスト教」を普及させようとした田村の教育思想の発展を歴史的・社会的背景を交えながら分析している。本書はいわば田村直臣の教育思想に関する包括的かつ歴史的批判的な研究書である。

 キリスト教教育を志す学生や近代日本における宗教教育の研究者、日本における子どもの人権の保障のありかたについて学ぼうとする者たちにとって、本書は避けて通ることができない重要な文献であると言えよう。

(いまい・せいじ=尚絅学院大学教員・特定非営利活動法人仙台夜まわりグループ理事長)

「本のひろば」(2018年8月号)より