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内容詳細

その不思議な魅力に迫る

詩的な響きをもって「イエスとは誰か」が語られ、共観福音書とは異なる存在感を放つヨハネ福音書。基礎的知識から現代での読み方まで幅広くカバーし、その独自性を明らかにしながら聖書本文へと誘う。ヨハネ研究に長年取り組むほか、説教学も講じてきた著者の初邦訳書。

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書評

ヨハネ福音書に真正面から取り組んだ入門書

伊東寿泰

 ロバート・カイザーのこの本が「今頃?」そして「ようやく」翻訳出版されたのか、というのが私の率直な感想である。本書は、キリスト教学のうち、新約聖書学の、それもヨハネ研究の中でも(入門書なので)主要な研究とは言い難い位置づけではあるが、ヨハネ福音書の入門書としては海外ではそれなりに認識されたものである。日本の読者にもわかりやすいように、また興味を引くように、「John,theMaverickGospel」という原著の書名を「ヨハネ福音書入門──その象徴と孤高の思想」とするなど、邦訳タイトルにも工夫の跡が見られる。著者自身が述べている通り、これは決して学術的な研究書ではなく、聖書(文献)の初心者に入門編として書かれたものであり、そのため、1学術書によくある注がないので読みやすい。2まず教会の聖書研究グループに向けて書かれ、その後3大学の授業の中で学生との議論を通して書き直しもされた。だから読み物としても面白い。

 しかし本書は、著者が「第二版を出版してから数年にわたって、私自身のヨハネ福音書との格闘が続いた。この間に、ヨハネ福音書の学術的研究にも、また私自身の見解にも多くの変化があった。つまるところ、人々が変化し成長するのと同じく、本も変化し成長しなければならない」(八頁)と述べているように、一九七六年の初版(約一二〇頁の比較的薄い本)、一九九三年の第二版を経て、二〇〇七年に第三版(本邦訳版)と約三〇年にわたり改訂を続けたものなので、入門書といっても内容はそれなりに深い。基本的にキリスト教の文化的背景を持つ米国などの読者においてならわかるが、入門書でも日本の読者にはそれなりに読み応えがあろう(邦訳は約三四〇頁)。学術的な深い議論や学説の紹介はないが、内容は押さえるところを押さえていて、ヨハネ福音書を読む際に読者として注意すべき基本的なポイントに気付かせてくれる。一言で言えば、絶好の概説書の一つである。本書を改めて読み返すと、私が南アフリカでヨハネ研究を始めた頃、大きな図書館に所蔵されていた一連の研究書をワクワクして読んだ時の記憶がよみがえってきた。

 今回の第三版(邦訳)で特に有益だと思った部分は、初版にはなかった終章の内容が、ヨハネ研究を引き合いに出して、これまでの聖書学の研究史を著者の視点からまとめてくれているところである。歴史批評的研究を中心とする近代主義の研究に対して挑戦とも映る、多様な(包括的な)読みや解釈方法を用いるポストモダン主義的研究の台頭経緯を説明し、現在の聖書学の一般的な研究動向を教えてくれる。この分野の「入門者」が幾多の注解書や解説書に囲まれても、それらの本の立ち位置(誰がどのような方法で何を明らかにするのか)を知る手掛かりを与えてくれる。ヨハネ研究においては、巻末の参考文献リスト(とその出版年)と合わせるとさらに有益であろう。気になった点は、原著タイトルに使われている「MaverickGospel」の訳語は、荒くれ(者)というイメージが強い「一匹狼の福音書」よりも、二七二頁にもあるように「型にはまらない/反主流の」という点で、「型破りの福音書」のほうが私には良いように思える。ただし三一九頁のように訳の箇所によっては、「一匹狼」の方が良い箇所も勿論ある。訳者の前川氏は、ヘルシンキ大学神学部(フィンランド)に留学し、現在は新約聖書学(特にヨハネ福音書と本文批評)の専門家として、大学等でキリスト教学を教えておられる中で、今回総じて読みやすい訳書を送り出してくれた。本書に限らず、新約聖書学の研究書が翻訳されて、興味深い先行出版物が日本の読者の目に触れる意義は大きい。このような翻訳本に熱意を注がれた訳者や出版社に敬意を表するとともに、今後も同様な企画が日本の読者のため、また新たな読者層の開拓に向けて進められることを願っている。


(いとう・ひさやす=立命館大学教授)


『本のひろば』(2019年2月号)より