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内容詳細

伝道と神学のパイオニア

異邦人への使徒として召されたパウロは、ユダヤ教神学を変革し、キリスト教の最初の神学者となる。初期キリスト教の生みの苦しみ、激動の時代を生きたパウロの劇的な生涯と、パウロ神学の形成過程を丹念に描く。最新の研究成果を反映した増補版。

《目次》

Ⅰ パウロの生涯

 1 生い立ちと周辺世界
 2 キリスト教徒への迫害と回心/召命
 3 諸民族のための使徒の召命
 4 エルサレム訪問
 5 新たな伝道領域
 6 アンティオキア教会での働き
 7 エルサレム会議に至る諸問題
 8 使徒会議の結果
 9 伝道の旅
 10 最後のエルサレム訪問
 11 最後の地ローマ

Ⅱ パウロの神学

 1 神による世界と人間
 2 イエス・キリスト
 3 福音・義認・信仰
 4 サクラメントと霊
 5 キリストの共同体
 6 恵みによる生と服従

 結び——パウロの神学を振り返って——

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書評

<本のひろば2021年9月号>

伝道者そして神学者としてのパウロ
〈評者〉廣石望

 本書は、東京神学大学名誉教授・特任教授、また山梨英和学院院長・同大学長である著者の同名著書(2003年)の増補改訂版である。前半が「パウロの生涯」そして後半が「パウロの神学」という構成は旧版のままである。「新たな神学的洞察は伝道を要請し、伝道はつねに新たな神学的営みを要求した」からである(「序」)。内容的には、後半に配置されたパウロの律法論が新しい。
 前半「パウロの生涯」では、迫害者から回心をへて使徒会議に至る時期がとくに重点的に叙述される。他方で計三回に亘る伝道旅行は、第二のそれ以外はとくにとり上げられない。とりわけ第三回伝道旅行は、残されたパウロ真正書簡のほとんどがその時期に由来するので、ここでこそ伝道と神学の緊密な結びつきを探求できたのではなかろうか。
 著者は、エルサレムでファリサイ主義に加わった青年パウロが、「十字架刑に処された神冒瀆者」イエスをメシアと告白するヘレニストたちを迫害したと推定するが(37頁以下)、穏健なファリサイ主義と暴力行使を正当化する過激思想は、それなりに区別されてよいだろう。また、パウロが「福音」概念の創始者であるという仮説に著者は好意的だが(45頁)、果たして新約諸文書における広がりをうまく説明できるだろうか。さらに、シナゴーグ礼拝に参加する「神を畏れる者たち」が最初の異邦人の宣教対象であると同時に、そこにはユダヤ人もいたと著者は正しく指摘するが(64頁以下)、最初の宣教地とされるナバテア人は「アブラハムの子孫」に当たり、本格的な異邦人伝道はむしろ「エルサレムから」(ロマ15・19)始まったかも知れない。故郷タルソスを宣教地に選んだ理由が、外典創世記にいうアブラハムに約束された土地範囲に関係するなら(79─80頁)、「すべての異邦人」への伝道はなお段階的に発展した可能性があろう。ところで、バルナバやシラスとの協働が、エルサレムとアンティオキアの二教会間のみならず、「全キリスト教会に義務づけられていた」絆であったという推定には(88頁以下他)、牧会者養成と教団指導に長年携わってきた著者の使命感のようなものが感じられた。
 後半「パウロの神学」は人間論、キリスト論、福音論(義認、律法、信仰)、サクラメント論(聖霊論)、共同体論、倫理からなる堂々たる新約神学的な叙述である。目指されているのは、パウロの伝道実践を要請した神学的洞察の再構成である。しかし逆の視点、すなわちどのような伝道上の課題がパウロに生じ、新しい神学的営みを要求したかは、伝統的に言われる律法主義と熱狂主義の二つのフロント以外には見えにくい。例えばエルサレムへの献金持参を目前に控えてコリントで執筆されたローマ書簡のパウロは、心は「西」に、しかし体は「東」に向いている。この引き裂かれたさまはどのような力学に由来し、それにパウロはどのような神学で答えたのか。
 それでも本書の真骨頂は丹念な釈義、そして総合にある。じっさいに聖書箇所を開きながら読むことで、読者は最良の仕方でパウロ神学への入門を果たすであろう。

廣石望(ひろいし・のぞむ=立教大学教授)