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内容詳細

ペンテコステ(聖霊降臨)の出来事の後、使徒たちの伝道は始まった。しかしそこには嫉みに燃えた人々の迫害が待っていた。ステパノの殉教など、教会への迫害が日増しに強くなりながらも御言葉を語り続けた使徒たち。伝道の志を貫いて生きた彼らの姿と、キリストの教会が形作られるまでを追う。

『キリスト教綱要』の訳者として知られる著者が、カルヴァンの講解説教のスタイルを踏襲しつつ、現代に向かって新しく神の言葉を語る。2004─2009年に語った150編の説教を全4巻に収録。

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書評

〈教会の宣教の言葉〉の集成

渡辺信夫著

使徒行伝講解説教

全四巻

 

久野 牧

 この度、四分冊として刊行された渡辺信夫牧師による『使徒行伝講解説教』は、日本キリスト教会東京告白教会で、二〇〇四年一二月一二日から、二〇〇九年九月六日までになされたものです。それは五年近くにわたり、一五〇回にも及ぶものでした。さらにこれは説教者である渡辺牧師が八〇歳を過ぎてから始められたものです。先生がこの説教に取りかかられたときには、「終わりまでやり通すことができずに止める日が来るかもしれないという予感」(「はじめに」)を持っておられました。事実、途中で健康を害されることがありましたが、それを乗り越えてついに当初の企画を果たし終えられました。その間、牧師のいくつかの「仕事の肩代わり」が教会員によってなされ、またあつい祈りもささげられたことでしょう。それらがあったからこそ、この業がなされたことを知るとき、これは牧師個人の説教というよりも、〈教会の宣教の言葉〉の集成であると思わせられます。

 説教の中で、「福音を語るということ、そして聞くということには、ただこのときだけ、という覚悟がある。……(これが)最終的な機会、この一回、ここで決まりがつくという確認が伴う」(第四巻、一〇八頁)と語られています。まさに「これが最後かも知れない」という緊迫感が、一回一回の説教において、語る側にも聞く側にもあったであろうということを、十分に感じさせるものが、この説教集にはあります。それほどに凝縮された言葉による福音の説き明かしをわたしたちは聞くことができます。

 カルヴァンは『使徒行伝』の注解書の「概要」で、次のように記しています。使徒行伝には使徒たちの説教がいくつも掲載されていることに触れたあとに、「それらの説教は……天の教えの主要点について語っており、それにまたキリスト教の信仰のまことの知識をほかに求める必要はないほどに適切にそれらを論じている」と述べています。この使徒行伝を説く渡辺先生の説教の一編一編には、心に留めるべき言葉が含まれています。アポロの説教の特徴と問題点について述べられている箇所ですが、次のような自戒を読み取っておられます。「心地よい話、ほのぼのと温まる話、分かりやすい解説、それが有害だということではないであろうが、救いの言葉が心に打ち込まれていなければならない。一つの語が心に留まるなら、それは根を生やし働き始める」(第四巻、五六頁)。そのような救いの言葉がのちに〈信条〉や〈信仰告白〉として結晶する、と説かれています。そうであるならば、講解説教は同時に教理的説教の特徴も備えている、ということになります。本説教集は、まさにそうなのです。

 本書には、伝道者、説教者のあるべき姿、また説教を聞く立場にある者の姿について、随所で語られています。さらに、語る者と聞く者との関係についても示唆的に語られています。次の箇所は、今日の教会の説教の問題に密接に関わるものであると言ってよいでしょう。プリスキラとアクラは、アポロの説教において「足りないところがあると感じ、助言あるいは補いをした。そしてアポロはその助言を受け入れた。これは説教とその聞き方についての模範例であろう」(第四巻、五一頁)。教会の宣教の言葉を紡ぎ出していくための説教者と聞く者たちとの信頼に基づく共同作業の一側面が指摘されています。この点から今日の教会の説教の問題を吟味することができるでしょう。

 本書の各巻末にはエッセイが掲載されています。それらは、「使徒行伝講解説教について」、「説教者としての歩みの中で学んだ私の説教論」、「講解説教について」、「使徒行伝講解の歴史を辿る」など、いずれも読み応えのあるものばかりです。説教本文とともに、このエッセイからも、深い示唆と学びが与えられ、霊性が養われます。今日の説教者は、優れた使徒行伝の説教を残してくださった渡辺信夫先生の、説教にご自身をかける姿勢と情熱から多くを学び、また信徒の方たちは、説かれるみ言葉によって、豊かな恵みに与ってほしいと願います。

(ひさの・のぞむ=日本キリスト教会函館相生教会牧師)

(四六判・全一四七六頁・定価計一〇九二〇円〔税込〕・教文館)

『本のひろば』(2012年3月号)より