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内容詳細

アウグスティヌスの書簡252通のうち、ほぼ4割に及ぶ101通を選んで2冊に収録。アウグスティヌスの生きた時代を知る上で重要な資料であるばかりでなく、書簡を通して教理的、倫理問題を論じたアウグスティヌスの思想を理解する上でも不可欠な文書として研究されている。

第2冊目にはカルタゴ協議会(411年)から、ペラギウス派論争を経て、彼の死(430年)までの時代の書簡と、新しく発見された書簡6通を収めた。ローマ帝政末期の混沌とした社会の中で、隣人愛に生き、奮闘するアウグスティヌスの生きた姿が甦る。

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書評

書簡から隣人愛の教父に触れる

出村和彦

  一九七九年に刊行が始まった『アウグスティヌス著作集』もあと三冊で完結される。今回その別巻として、比較的重要な手紙一〇一通(アウグスティヌス宛のマクシムスの手紙一通(書簡一六)を含む)を収録する二分冊の『書簡集』が刊行されたことによって、『著作集』の価値はさらに高まった。

 アウグスティヌスの書簡は、発信受信とも彼の生前からコピーされ大切に保存されていた。ヒッポの彼の手許に残されたその集成は、彼自身が最晩年に編集した上で残すことを企図していた──題はそのとき付けられたものかもしれない──が、十分果たされぬまま、彼の手を離れて流布したものも含めて、アウグスティヌスが書いたもの二五二通、彼に宛てられたもの四九通、彼の知人が第三者に宛てたもの七通の総数三〇八通が現在見出され、番号が付けられている。今回訳されたのはその約四割に当たる。第一部、ミラノでの回心直後(三八六年)からヒッポの副司教就任(三九五年)まで、第二部、司教就任(三九六年)から西ゴート族によるローマ攻略(四一〇年)まで(以上別巻I)、第三部、カルタゴ協議会(四一一年)からペラギウス派論争を経て彼の死(四三〇年)に至るまでの手紙が執筆年代順に並べられ、別巻IIの最後には、第四部として、一九八一年に発見された二九通の新書簡、いわゆる『ディヴジャック書簡』(P・ブラウン『アウグスティヌス伝』教文館、下巻「エピローグ」を参照せよ)からも六通が収録されている。

 ここに収められた書簡は、同じ時期に書かれた著作の理解を深めるのに大いに役に立つ。たとえば、親友ネブリディウスに宛てられた一連の手紙(書簡三、四、七、九―一四)からは、プラトン主義哲学をめぐる若きアウグスティヌスの精神的発展をたどることができ興味が尽きない。また、書簡一七四は『三位一体』の完成についての複雑な事情を明らかにし、新書簡一Aと新書簡二は、『神の国』の読解の手引きともなっている。また、彼の生きた古代末期の教会を取り巻く社会状況を知るための第一級の史料である。教皇イノケンティウスやケレスティヌス宛の書簡一七五、一七七、二〇九やアレクサンドリアの司教キュリロス宛の新書簡四は、当時の外交シーンを浮かび上がらせる。最も長大な書簡九三「異端者に対する力の強制について」は皇帝によるドナティスト鎮圧令が発せられ実施された経緯を知る重要な文書である。さらに、富裕層(書簡一二六、一三〇)や権力者(書簡一八九、二二〇)に対する勧告では富や欲望に対するアウグスティヌスの態度が如実に示されている。

 アウグスティヌスの書簡には論文との相違のないものも多い。とりわけ、ペラギウス論争とその後のいわゆるセミ・ペラギウス論争(ただし、この用語は後代のもの〔II三一一頁参照〕)において、書簡一四五「律法と恩恵について」、書簡一八六「ペラギウス主義について」、書簡一九四「恩恵について」、書簡二一七「ペラギウス主義について」は、『著作集』での種々の論考の論点をよりコンパクトに明確にしたものとなっている。

 原典の難読箇所等が注記された上での翻訳は概して読みやすく、各書簡には、最新の英訳等の研究成果を反映した解題が付されて内容の理解を助けている。「書簡に刻まれたアウグスティヌスの姿は、さまざまな難題に心を込めて取り組んでいる牧会者のそれです。この書簡集によってわたしたちは『隣人愛の人アウグスティヌス』に直接触れることができます。実に文体まで相手のことを慮って微妙に変化しています。しかも若いときから老年に至るまで書き続けられていますから、わたしたちも一生涯にわたってこの書簡集を手許に置いて伴侶とすることができます」(「訳者あとがき」II四六四―五頁)という示唆は、書簡一八五「ドナティスト批判」(『著作集』第九巻所収)の翻訳以来、二八年間の長きにわたって書簡翻訳に注がれた訳者の愛情がなせるまさに至言である。今こそ教父の味読が求められている。

 (でむら・かずひこ=岡山大学大学院社会文化科学研究科教授)

 『本のひろば』(2013年9月号)より