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内容詳細

宣教師の働きから芽生えたプロテスタント・キリスト教による学校教育は、近現代史にどのような足跡を残し、信教と教育の自由を脅かす諸問題とどう対峙してきたのか? 明治学院大学、キリスト教学校教育同盟で重職を歴任した著者が、日本のキリスト教学校教育の淵源からその将来までを通観する小史。


 

【目次】
第一章 「ピューリタン」ヘボン――その光と影
第二章 アメリカ長老・改革教会宣教師ヘボン、ブラウン、フルベッキの功績――W. E. グリフィスによる伝記から
第三章 20世紀初葉の日本基督教会と明治学院
第四章 キリスト教大学設立運動と教育同盟
第五章 神社参拝とキリスト教学校
第六章 「キリスト教学校教育論」論争史
第七章 教育同盟の100年、そして未来に向けての五つの提言

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書評

学校教育から日本キリスト教史を読み解く
 
塩野和夫
 
 プロテスタント系キリスト教学校史を扱う本書は、先行研究と関連史料を踏まえ、キリスト教史研究と社会科学的方法を駆使してテーマ毎に論じた、読みごたえのある全七章となっている。当初発表した様式の講演(二章・三章・五章・六章)、論文(一章・四章)・分担執筆(七章)から生じた体裁の違いはあるが、キリスト教教育の明日を切り拓こうとする意欲に満ちている。
 テーマによって三区分し、それぞれの内容を概観する。「第一章 『ピューリタン』ヘボン──その光と影」と「第二章 アメリカ長老・改革教会宣教師ヘボン、ブラウン、フルベッキの功績──W・E・グリフィスによる伝記から」は来日宣教師を扱い、サブタイトルの「宣教師の種蒔き」にあたる。二章は明治学院の「学祖」とされる三人それぞれの明治初期日本への貢献を扱う。それに対して、一章は「聖人」ヘボンを問い、丹念に史料を調査して「人間」ヘボンを読み解いていく。その際に筆者は史料の語りかけを尊重してヘボンの内面には立ち入らない。むしろ、読者との対話に委ねている。
 キリスト教学校をテーマとするのが、「第三章 二〇世紀初葉の日本基督教会と明治学院」「第五章 神社参拝とキリスト教学校」「第六章 『キリスト教学校教育論』論争史」である。三章は二〇世紀初葉のキリスト教学校を、植村正久、賀川豊彦、朝鮮伝道を取り上げながら、日本基督教会との関わりから掘り下げている。五章は一五年戦争期のキリスト教学校を神社参拝問題に焦点をおき、カトリック学校や台湾・朝鮮のキリスト教学校も取り上げて論じている。六章はキリスト教教育の可能性に期待しながら、「明治・大正期」では新島襄、井深梶之助、D・B・シュネーダー、新渡戸稲造の教育論を紹介する。「戦後期(一九九〇年まで)」からは松村克己、小林信雄、関田寛雄、赤城泰、「現代(一九九〇年から)」からは中山弘正、倉松功、松川成夫、山田耕太を取り上げ、彼らの論争を紹介している。
 「第四章 キリスト教大学設立運動と教育同盟」と「第七章 教育同盟の一〇〇年、そして未来に向けての五つの提言」はキリスト教学校教育同盟(一九一〇年の設立時は「基督教教育同盟会」)を扱う。四章は設立当時の教育同盟を訓令第十二号及びキリスト教大学設立運動との関わりから分析する。それに対して、七章は教育同盟の一〇〇年間を時代状況の推移を踏まえて概観した上で、「(1)キリスト教学校教育の理念の明確化と一致」「(2)エキュメニズムによる発展」「(3)キリスト教による人間教育の推進」「(4)キリスト教学校教育の担い手の育成」「(5)組織改革の必要性──総会改革を例に」からなる「未来に向けての五つの提言」を表明し、本書の結びとしている。
 歴史研究の立場から本書の課題を述べておく。一章と二章の来日宣教師研究に関しては総体性と個体性をめぐる課題がある。史料を駆使して「人間」ヘボンを分析しているが、さらに共感性を用いて宣教師の内面を描写できれば、緊張感が増し叙述内容も豊かになったと思われる。キリスト教学校を扱う三章・五章・六章には賀川豊彦のわずかな例を除いて学生が登場しない。彼らへの教育を目的とするキリスト教学校の現場は、学生不在でふさわしく描き出すことができるのだろうか。四章と七章の教育同盟では統一性と多様性をめぐる課題がある。いずれにもバランスを保った叙述が求められるが、本書ではいささか統一性に重点がおかれているように思われる。
 タイトルの末尾にある「話」は、論じる対象の広がりと豊かさを示している。それらは直接的にはキリスト教学校教育関係者に向けられているが、日本キリスト教史を読み解く貴重な手がかりも随所に秘めている。多くの読者が期待される所以である。
 
(しおの・かずお=西南学院大学教授)
 
『本のひろば』(2015年6月号)より