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内容詳細

伝統的かつ革新的な
真のフランチェスコ像を探求

“自然を愛した聖人”として今も広く崇敬される聖フランチェスコ。
彼の自然環境への態度とはどのようなものだったのか?
有名な「鳥への説教」の挿話や『兄弟なる太陽の讃歌』の詩は何を意味するのか?
綿密な資料研究と中世自然観の再検討を通してフランチェスコの思想を正しく分析し、
現代の生態学的な問題探究への基礎を提供する包括的な論究。

【目次】
序 論 中世的自然観についての神話
第一章 禁欲の伝統と初期フランシスコ会の見解
第二章 フランチェスコの創造の解釈における伝統的要素
第三章 フランチェスコの創造物への態度における伝統からの超越性とその最初の主要な影響──鳥への説教
第四章 創造物へのフランチェスコの特別な関心
第五章 『兄弟なる太陽の讃歌』における伝統とその影響
第六章 『兄弟なる太陽の讃歌』の意味をめぐる論争
第七章 『兄弟なる太陽の讃歌』──創造についてのフランチェスコの理想像
第八章 フランチェスコ──事実と遺産
附論1 フランチェスコとカタリ派
附論2 初期フランシスコ会資料の分析
附論3 初期資料における鳥への説教

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書評

エコロジーをめぐる中世の聖人の現代的意義を論じる
 
手塚奈々子
 
 アッシジのフランチェスコ(一一八一/二─一二二六)は、環境破壊の進む社会の中で西洋キリスト教文明の中からその見直しとして、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世により一九七九年に「環境保護運動の保護の聖人」とされた。本書は、現代エコロジスト達に用いられる「フランチェスコ」を正確にまず歴史的に位置づけ、その上で現代社会に貢献する諸点を探っている研究書である。訳者が三二七─三二八頁に述べておられるが、本書は、著者ソレルが博士号を取得した論文の改訂本であり、Oxford University Press から一九八八年に出版されたものである。
 本書の構成は、著者の「謝辞」、序論「中世的自然観についての神話」、第一章「禁欲の伝統と初期フランシスコ会の見解」、第二章「フランチェスコの創造の解釈における伝統的要素」、第三章「フランチェスコの創造物への態度における伝統からの超越性とその最初の主要な影響──鳥への説教」、第四章「創造物へのフランチェスコの特別な関心」、第五章「 『兄弟なる太陽の讃歌』における伝統とその影響」、第六章「『兄弟なる太陽の讃歌』の意味をめぐる論争」、第七章「『兄弟なる太陽の讃歌』──創造についてのフランチェスコの理想像」、第八章「フランチェスコ──事実と遺産」、附論I「フランチェスコとカタリ派」、附論II「初期フランシスコ会資料の分析」、附論III「初期資料における鳥への説教」そして詳細な「訳者による解説」「訳者あとがき」となっている。
 本書の特徴は、創造されたものの価値について、フランチェスコによる伝統と革新の統合(特にシトー会との関連の指摘は興味深い)、フランチェスコとその会員に見られる祈りの隠遁性と使徒的福音主義的運動の統合(当時の使徒的福音主義的運動の中でフランチェスコの改革が教会の内部に留まったということからも重要である)、そしてフランチェスコの被造物を尊重する態度──それは人間の有用性によらないでも創造されたもの自体として尊厳を持つ──を論じたことにある。
 現在、エコロジーを論じる際、神学、宗教学、社会学、環境学等においてフランチェスコの言葉が引き合いに出されるが、その正確な意味を顧みずに濫用される危険がしばしばある中で、本書はフランチェスコの生きた状況とその時代背景からその伝統と革新の統合の意味を考察し、その上で現代社会に訴え得る諸点を指摘しており、環境問題を論じる際に、必読の書である。
 ところでフランチェスコの平和思想により、ローマ教皇ヨハネ・パウロ二世は、一九八六年アッシジで世界初の諸宗教間対話の場を作り共に平和のために祈り、京都・栂尾にある高山寺とイタリアのアッシジの聖フランチェスコ大聖堂との間に世界初の兄弟関係を結んだ(詳細は、河合隼雄/ヨゼフ・ピタウ著『聖地アッシジの対話──聖フランチェスコと明恵上人』[藤原書店、二〇〇五年]参照)。その証しとして、高山寺は「樹上坐禅像」(成忍作・明恵上人が鳥のいる樹上で坐禅)のコピーをフランチェスコ大聖堂に贈り、フランチェスコ大聖堂は「小鳥への説教」(ジォット作・フランチェスコが鳥達に説教)のフレスコ画のコピーを高山寺に贈った。日本で今後仏教とキリスト教で環境問題の捉え方の違いを論じるだろう。その際にも、フランチェスコ研究としてこの度訳され出版された本書は必読の書である。
 最後に、翻訳について、訳者自身が三二九頁で述べておられるが第一章の古代キリスト教の詩歌は原典参照の必要があろう。キアラは日本ではクララで通じている。創造物という訳語が連なるが、本書の意図から察した。環境問題をめぐって、「フランチェスコ」を歴史的な状況からおさえその現代的意義まで本格的に論じた研究書の翻訳で、訳者の御尽力は多大である。
 
(てづか・ななこ=明治学院大学教授)
 
『本のひろば』(2015年8月号)より