植野雅常務(左)と植野美枝子社長(右)

新企画として、教文館でお取り扱いのある商品のメーカーさん、出版社さんに突撃インタビューを敢行して行きます。まず第一回目は浅草に本社を構える聖書カバーメーカーのユナイテッドプランニング社様からです。

kanrinin01― まず、御社が聖書ケースを製作することになった経緯を教えて下さい。

 

雅常務

私どもが聖書ケースを制作することになったそもそもの経緯は、私が以前に日キ販(日本キリスト教書販売株式会社:キリスト教書籍の出版取次会社)にアルバイトに行っていたというのが始まりです。運送会社の派遣で日キ販に回されたんですね。
それで昼休みに日キ販の社員の方に家業を聞かれて、「バッグなどを作っています」と言ったら、「それじゃ聖書ケースは作れないか?」と重ねて聞かれて。それで、親を連れてご相談に伺いますよ、と話したのがきっかけでした。

美枝子社長

ひょんなご縁で、平成6年頃だったと思います。日キ販に行きましたら、「こういうのを作れませんか」と当時あった聖書ケースの見本を見せられたんですね。でもそれを見て、これだったらもっと違うものを作りたいと思いました。申し訳ないけどちょっと垢抜けなかったんですよ。私はファッション性のあるものが作りたかった。それでお受けしようと思ってすぐにサンプルを作ったんですね。キリスト教はこうであるという先入観が私にはなかったので、「やるんだったらこれくらいの色使いでやりたい」と(サンプルを)お見せしました。生地はサテン地でした。

 

kanrinin01― かなり思い切った色使いですね。日キ販の方々の反応はどうでしたか?

 

最初の試作品サンプル

社長

「ピンクの聖書ケースなんてキリスト教で買う人いないよ」と最初言われました(笑)。でも、こうして落ち着いた色だけではアイキャッチがないと私は思った。ピンクがラインナップにあるだけで製品全体を二度見してもらえそうだと思ったんです。「そんなの売れない」と言われましたけど、色の種類によって生産量を変えて対処するから何とか入れてほしいとお願いしました。無駄かもしれないけど、他の買っていただきたい商品が見過ごされないためにこれを入れたんです。お客さんの選択の幅も広がりますしね。
ところが、ふたを開けてみたらピンクも結構売れたんですね(笑)。それで教文館の中村義治社長(当時)が「もうユナイテッドに好きなようにさせなよ」と言ってくれたんです。それが鶴の一声で、聖書ケースの製作に本腰を入れるようになりましたね。あなたは教文館の社員さんだから、是非このことはお伝えしたかった(笑)。ほら、この当時はまだ作りもベコベコしてますし、今とは全然完成度が違うでしょう。今では職人の熟練度も格段に向上しています。

 

kanrinin01― さきほど「元々カバンをつくっていた」とおっしゃっていましたけども・・・。

 

社長

私は昭和30年頃に文化服装学院を卒業しまして、もともとオーダー服を縫っていたんです。学校では厳しく教えられましたね。先生から「襟の輪郭の1mmでお金をもらえるかもらえないかが変わると思いなさい」と言われました。1mm削っただけでシャープになる、1mm膨らませただけで可愛くなる。それで勝負をしなければいけない、と。その先生は、皇室のお后方のお洋服を縫っていた方だったんです。今だにその時に叩きこまれたものが骨身にしみているんですよ。
オーダー服を縫っていた時分は、お客さんが注文を持ってこられたら、その生地の長さと注文の内容を見て、瞬時にご本人の背の高さから使い方から全てをイメージしなければいけない。それから裁ち合わせをして本縫いをして、気に入ってもらって初めてお金をもらえる。そういう世界です。
仕事の出来栄えの目安として「お釣り結構です」とお客さんに言わせるものがあるかどうかでした。当時注文服を作られるほどのお客さんは、お釣りなんか受けとられませんでしたよ。満足されなかったらとられます(笑)。でも本当に満足したらおみやげも持ってきてくれますよ。ほとんどそうでした。おかげで家計は結構潤いましたね(笑)。

 

kanrinin01― なるほど、社長ご自身が筋金入りの職人さんでもあるんですね。

社長

やがて高度成長期に毛皮ブームというものが来ました。当時は毛皮を持っていないと女じゃないような時期だったんですよ。
その時にカナダの毛皮業者さんからお話があって、「洋服を元々縫っていたので毛皮服のこともわかるでしょう」ということで、その方の東京事務所を預かってくれと言われたんです。それがご縁で催事をしている間に毛皮業者さんと知り合いになりまして、オリジナルのハンドバッグやポーチはつくれませんかと提案されて。洋服から毛皮、毛皮からハンドバッグ、ハンドバッグつくれるんだったら化粧品会社のキャンペーン用のトラベルポーチをと、だんだん変わっていったんです。たまたまその時聖書ケースのお話を頂いたんです。

 

kanrinin01― ほんとに不思議なご縁が続いたんですね。ところで、幾つか製品のアピールをして頂けますか。

 

社長

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タータン柄P9060374

これはタータン柄聖書ケースです。初期にリリースした製品ですが、トータルでは一番売れていますね。汚れない、しっかりしている、お年寄りにも若者にも受ける。当時の選択が間違っていなかったと思います。
このファスナーの引き手についても、新共同訳のマークをイギリスの本部に使用許可を取ってもらったんですね。日本でうちだけがこのマークを使わしていただいていると思います。
だから、変なものは作れないんですよ。聖句を入れ込んだり装飾を凝ったりする業者さんはいらっしゃると思うんですが、そういう方向ではなくて、ユナイテッドは機能的に優れていて、長年愛用できる製品を生み出す「もの作り」をする会社であろうと思っています。

 

kanrinin01― 商品によってはかなりこだわり感が漂うものがありますね。

 

P9060363

デニム柄P9060363

社長

例えばデニムがそうです。これは「愛用のジーパンを解いて聖書ケースを作りました」というコンセプトなんです。ほら、本来必要な周囲補強のパイピングがないでしょう。だってもともとジーパンにはそんなパーツがないわけですから(笑)。だから使っていないんです。その代わり贅沢でも、生地を二重に重ねています。そして周囲にステッチをかけました。ポケットだけではダメで、デザイン的にステッチが効いていなければダメなんですね。ステッチは私自身がかけています。縫製屋さんには出来ないんです。こだわりですよ。
それからもう一箇所、ラベルは普通四方に縫う方が強いんですが、でも上下だけしか縫っていないんです。だって本来ベルトを通すラベルは横が開いていて当然ですからね。この部分を縫うのに、一つ糸切りがいくらという数え方をしますから費用は4倍になるんです。だけど、これも譲れないというこだわりです。

常務

デニム柄2 D1255

こちら(右写真デニム2)は同じデニムなんですが、パイピングもしてあるしぜんぜん違うでしょう。そもそものコンセプトが違うんです。こちらはカジュアル志向のものなんです。「デニムの生地で、若者にも親しみやすい聖書カバーを作りました」というコンセプトです。

社長

製品を生み出すために険悪な喧嘩もする時がありますよ。常務は息子ですから、お互い似てるんですよ。譲らないですよ。でもなるほどなと思ったら簡単に「分かった」と言っちゃう。意地を張り通すことはありません。いいものを生み出したいんですよお互い。

 

kanrinin01― なるほど、生地に合わせてコンセプトも練った上で製品化されているんですね。

 

へヴィーコード H1350

常務

そうなんです。もう一つ、こちらのヘヴィーコードは”コーデュラナイロン”という素材を使ったものです。特殊なナイロンで、防弾チョッキなどに使われます。引っ張り、摩擦にものすごく強いナイロンです。周囲のパイピングがありませんが、素材が擦り切れにくいので不要だからです。擦り切れるほど使ってもらえるなら本望なんです。
同様にファスナーのポケットの部分ですが、この部位は隙間が開いていて中が見えるのが普通です。こんなに閉じていると普通は擦り切れてします。でもこの素材の良さを考えた時に、生地がそもそも擦り切れにくいので閉じてファスナーの部分を隠している。見た目がすっきりするでしょう。そして細かいことですが引張りの部分だけは外から見えるので表の色に合わせてある。特注なんです。

社長

この聖書ケースのコンセプトは「意外性」なんです。この素材でしか出来ない演出なんです。ぱっと見には地味なんですが、中を開けると明るい色彩にしてあってこんなに派手なんだという意外性を持たせることが出来る。
日本の歴史を紐解くと、江戸時代に幕府から倹約令(贅沢禁止令)が出された事があります。下町の庶民は表面上は従いましたが、「てやんでい」って言って着物の裏に富士山の絵柄を施したり、値の張る生地をあえて木綿羽織の裏側に使ったんですね。最先端のコーデュラを使うにあたっても、日本人ですからこの「てやんでい」をしたかった。配色のミスマッチを敢えて行ったのはこういうわけなんです。普通は黒色の裏には金茶という相性のいい色を使うんですね。でもそれではつまらない。洋風な黄色を使って目を引きたかったんです。

 

kanrinin01― 御社のこの社屋も東京の下町にありますが、まさに下町気質ですね。

 

常務

会社の立地条件は大きいですね。浅草というと観光のイメージですが、もともと「もの作りの町」なんです。街の雰囲気というか、職人さんがいっぱいいて付随した道具屋さんや材料問屋さんがあちこちにあって、ノリというか肌で「もの作り」を感じることができたのは大きいですね。だから私の知らないジャンルの職人さんのところに仕事で行っても、もの作りという意味ではまるっきりの素人ではなくて、職人の仕事の仕方はだいたいわかっていますというスタンスでお話が出来ます。だから建設的に話が進んでいくんです。

 

kanrinin01― 最後にユーザーの皆さんに向けて一言お願い致します。

 

常務

お客さんには自信をもって我が社の聖書ケースをおすすめしたいと思います。結構うちはほかで自社製品の真似をされてしまうんですね。だけど真似されたから負けたって言うことはないですね。というのはオリジナルを作るときは全ての工程に意味があるんですよ。
色や構造を検討するときに一つ一つ理由があって選択していってるんです。コピー商品は完成品をみて真似て、少し変えているわけですが、そういう全体の背景をわからずに変えますから、その変えた要素が結構大事な部分だったりするんですね。真似したものはオリジナルは超えないんだなというのが経験としてあるので、気にしていません。むしろ、ここいじっちゃったのかって(笑)、このデザインでこの色使ったか~残念だねってなります。

社長

聖書ケースに限らず、「もの作り」は心理学だと思っています。お客さんがどういうふうにお使いになるか、満足してもらえるかというのをイメージすることから始まるんです。それはオーダー服を作っていた時分から変わりません。お客さんの要望に最大限答えながら、今後も限られた条件の中で最善を目指していきます。プロですからね。

 

kanrinin01―今日はどうもありがとうございました。

 

(インタビュー後記)

お二人にインタビューをしながら、こだわりを貫く小気味の良い職人気質と、新しいものを生み出していく積極的な企業姿勢をいたるところに感じました。今回は割愛していますが、ユナイテッドプランニング社は現在聖書ケースのみならず、健康食品や団体の各種記念品をプロデュースするなど幅広く教会や世間のニーズに答えながら事業を展開しておられます。誌面ではご紹介できませんが、今後のさらなるご活躍に注目したいと思います。

kanrinin(イーショップ教文館店長 吉國記)