【たくさんのふしぎ40th】🤔(2006年4月号)
『春をさがして カヌーの旅』
大竹英洋 文・写真
福音館書店 刊
2020年02月15日 発行
1430円(税込)
40ページ

北米のノースウッズ、生命がきらめく

北アメリカ大陸北部の森と湖の世界、ノースウッズ。冬の間は雪と氷に閉ざされていますが、5月になるとようやく湖の氷が解け、春がおとずれます。著者の大竹英洋氏は長年ノースウッズで野生動物や人々の暮らしを撮影している写真家です。著者の友人ウェイン氏は毎年この時期になるとカヌーに3週間分の食料とキャンプ道具を積み込んで森の奥へと旅にでます。これはウェイン氏と著者の3週間のカヌーの旅の記録です。

カヌーの旅と言ってもすべての行程でカヌーを使うことはできません。カヌーを使えない場所ではカヌーも荷物も自分たちで運びます。そんな時に頼りになるのが「ポルタ―ジュ」と呼ばれる道です。昔からこの場所に住んでいる人たちが湖から湖へと移動する際に踏み固められてできた道ですが、歩いているのは人間だけではありません。オオカミ、クマ、ムース…。森の動物たちの存在が、わずかな手がかりから浮かび上がります。森も湖も、人間だけのものではないのです。森を知り、森に生きる人々と森でくらす生き物たち。旅をするウェイン氏と著者が受け継がれてきたポルタ―ジュを通して、連綿と続く森の歴史に敬意を抱いて歩んでいるように感じられます。

その森についてハッとさせられるお話がありました。旅の途中、ジャックパインの若木がすき間なく育っている森と出会った2人。ウェイン氏によるとそのあたりは20年前に山火事で燃え、その熱によって松ぼっくりがいっせいに芽を出したことで生まれた新しい森だったのです。「山火事」ときくと悪いことのようにとらえてしまいますが、古い植物を燃やして新しい植物を育むために必要な、自然のサイクルの一部なのでした。「森は止まっているようにみえるけれど、本当はいつも動き続けている」というウェイン氏の発した言葉が印象深く心に残ります。

本書の始まりでは冬の気配がまだ残るノースウッズですが、終盤では花開く植物の写真が見られるようになります。冬の澄んだ大気や草木薫る春を写真で、言葉で、感じていただける一冊です。(ほ)

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