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『いま、日本は戦争をしている 太平洋戦争のときの子どもたち』
堀川理万子 絵と文
小峰書店 刊
2025年6月 発行
4180円(税込)
128ページ
対象:小学校中学年から

10歳のおれ、12歳のわたし、7歳のぼく、8歳のおい……17人の子どもが見た戦争

樺太から沖縄まで、そして当時日本が占領をしていた中国大陸に暮らした5歳から17歳までの17人の子どもたちの記憶に残る戦争の姿が、丁寧な聞き取りによる取材によって絵と文章でよみがえりました。ここには空襲、原爆、疎開、引き揚げといった戦争そのものの景色も描かれていますが、庶民の暮らしの中に直接的な暴力ではない形で戦争が潜んでいること――慢性的な空腹、子どものおもちゃや幼稚園のブランコまでが金属供出の対象とされたこと、家族同然であった働き手の馬の出征など――も「戦争のリアル」として伝えられています。テキストは証言者である子どもたちの言葉で綴られ、その時どのように自分が感じていたかが素直に語られます。辛いことや我慢しなければならないことはたくさんあっても、子どもたちは戦争の日常の中に自然と楽しみや喜びを見出してたくましく暮らしていました。原爆投下直後、避難所となっていた神社の隣の保育園の園庭に鉄棒を見つけて思わず駆け寄って遊んだ(この本の表紙の絵です!)というエピソードは、その後の悲惨な状況とはまるで別世界のように感じられる心躍る瞬間ですが、それが子どもであるということなのかもしれません。たとえ戦争中であっても、空は青く緑が萌え、人は生きるために懸命なのだということが、一人ひとりの体験から見えてきます。そして、忘れてはならないのは戦争は玉音放送があったその日に終わったわけではないということです。満州(中国東北部)や樺太からの引き揚げを迫られた家族、地上戦が終結した後収容所で暮らした沖縄の人々、シベリア抑留の末1946年1月に父が戦死したことを知らされた少年など、1945年8月15日以降も人々の戦争は途切れることなく続いていたのです。

17人一人ひとりの証言に寄り添い記憶の風景を描き出した本書は、編集者と著者の「いま聞かなければ、無かったことになる戦争体験がある」という切迫した思いから生まれました。企画から3年の月日を費やして制作された『いま、日本は戦争をしている』は、声高に戦争反対を言うものではないがゆえに、かえって戦争の恐ろしさと悲しみがひしひしと伝わり「どんな理屈をつけても戦争はおこしてはいけない」ことを読者に感じさせます。
戦後80年、我々の戦争が歴史の彼方に遠ざかりつつある今こそ、銃後の人々(それはまさに私自身)に何をもらたすのかを改めて知ることが必要とされています。(か)

【お知らせ】2025年7月25日~8月31日まで、ナルニアホールで“堀川理万子『いま、日本は戦争をしている』原画展”が開催されます。会期中には堀川さんのトークも行われますので、皆さまぜひお運びください。

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