クリーンヒット ⚾ フィクション
『ゾウがやってきた』
ホリー・ゴールドバーグ・スローン 作
三辺律子 訳
小学館 刊
2025年7月 発行
1870円(税込)
264ページ
対象:小学校高学年から

奇想天外な家族の愛と奇跡の物語

オレゴン州に暮らすトルコ系アメリカ人の少女シラが一番好きな動物はゾウ! でもアパートはペット禁止でどんな動物も飼うことはできません。

ある日、シラの母のところに突然移民局から「入国管理の書類に不備がある」という通知が来て、母はトルコに戻らなくてはいけなくなってしまいます。「8日で戻る」と言って出ていったのに、8か月経っても母親は戻ってきません。シラは父と二人で、不安に駆られながらただ待つだけの日々を送っていました。
そんな時、自動車修理工場で働く父のもとに、田舎に住む老人(ジオ)からトラック修理の依頼が舞い込みます。高額な宝くじに当選して数カ月前にこの広大な農場を購入し、たった一人で高い塀に囲まれ暮らしていたジオは、シラが2年生の時の担任で4年前に亡くなったガルディーノ先生の連れ合いだったことがわかります。そして、ジオの誕生日の朝食を一緒にお気に入りのドーナツ店で食べる約束が、二人の人生を大きく変えることとなりました。
その朝ドーナツ店の駐車場にやってきたのは解散が決まったサーカス団で、トラックの中にはインド象のヴェーダを連れていました。ゾウを見た時のシラの表情は妻の死以来固まっていたジオの心を揺り動かし、彼は檻の中に閉じこめられていたひとりぼっちのゾウを買うことにするのです。

「宝くじを当てて莫大なお金を手にした老人が、サーカスのゾウを買い取って庭で育てることになる。」という帯の文言を読むと、途方もない設定に身構えてしまう読者もいるかもしれません。確かにファンタジックな設定ではありますが(個人でゾウを飼うことはできるのでしょうか?)、主人公のシラが抱える孤独や葛藤が、ジオとの交流やヴェーダの世話を通して少しずつ良い方向に変化していく過程は読者を十分に納得させるものです。学校の教育プログラムでペアを組まされた自閉症の男の子・マテオとの関係も、最初はいやいやだったシラが段々と彼の個性を呑み込み、折り合いをつけながら確かな友情を築き上げていく様子が素直な納得のいく展開で描かれます。二人が協力してヴェーダの母ゾウを探し出し、二頭を出合わせるラストは感動的です。
年齢に関係なく、人は人とのかかわりの中で成長し幸福を見出していくもの――ということがシラの家族の愛を中心に語られる、とても素敵なお話です。(か)

★ご注文、お問い合わせはお電話、Fax、メールにて承ります★
売場直通電話 03-3563-0730
Fax 03-3561-7350
メールでのお問い合わせは下記のフォームからどうぞ。

お問い合わせフォームへ