
ベスト 👍 フィクション
『デモクラシーのいろは』
森絵都 著
KADOKAWA 刊
2025年10月 発行
2310円(税込)
616ページ
対象:高校生以上
民主主義の基本は、君たちが、自分自身で考えた物語を生きることです。
敗戦からまもない1946年冬、GHQの命による一つの実験が東京都下の華族邸宅で始まろうとしていた。
「日本人は民主主義を理解し、実践することができるのか――」
教師を務めるのは日系二世で、戦中は米兵に日本語を教える教官だったリュウ・サクラギ。生育環境も戦争体験も異なる20歳前後の4人の女性が生徒として選ばれ、半年間共同生活をおくりながら民主主義教育を受けることになる。しかし、4人のレッスンに向かう姿勢はバラバラで授業はまともになりたたない。それでもリュウが手探りの授業を通して一人一人と真剣に向き合おうとする中で、彼女たちも学びの姿勢と互いの関係を少しずつ深めていく。果たして彼女たちは半年間のレッスンで「民主的な生き方」を体得することができるのか――?
物語は主にリュウの目を通した半年間のデモクラシー・レッスンとして描かれます。リュウと4人の女性だけでなく、登場人物はみな複雑な背景を抱えているため、何事も一筋縄ではいきません。もともと突拍子もない計画・実験であり、関与する人たちの思惑が良くも悪くも十人十色なのですから、それもある意味当然のことでしょう。語り手のリュウ自身、民主主義の教師をしながら「アメリカン・デモクラシー」の理想を完全に信じてはいませんし、4人の生徒たちはそれぞれ戦争で負った深い疵を抱えており、屋敷を提供した仁藤鞠子子爵夫人は自らの生き残りを賭けて暗躍しています。そして、様々な学びと体験を通して自分の頭で考え、己の言葉で発言する姿勢と能力を習得していった彼女たちの前には、かつての軍国主義が崩壊し、GHQによる民主化政策が推し進められる中でも「女性を人格のある一個人として認めない日本社会」という大きな壁が立ちはだかるのです。半年のレッスンを終えた後、彼女たちがどのような道を選び、自立した女性としての一歩を踏み出していくのか、読者はハラハラしながらその過程を見守っていくことになります。
物語の面白さを際立たせているのが個性的な登場人物。特に民主主義の授業を受けることになった4人の女性は、元華族のお嬢さまから上野の夜の女王まで様々な過去を持っており、共通するのは戦争ですべてを失い、絶望の中にあることだけ。けれどその4人が学びを通して自らのうちに眠っていた力を掘り起こしながら、次第に同志にも似た関係を築いていく様子が印象的です。また、学ぶことは喜びであると同時に苦しみをもたらすこと――無知であれば気づかずにいられた自身の罪にも向き合わねばならなくなること――は、学びの本質に触れた思いがしました。
後半の、ある生徒の日記で明かされる事実に衝撃を受けつつ、この上なく明るい未来を予想させる結末まで、読者一人一人に「民主主義とは何か」を問いかけながら進む、笑いと明日への希望にあふれた力強い物語です。(か)
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